<社説>21年防衛予算 地元無視の行政手続きだ


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 当然の行政手続きすら尊重せず、遮二無二工事を進めようという意図が明確な予算編成だ。

 防衛省は米軍普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古の新基地建設に関し、工費として総額約215億円を盛り込んだ。うち2021年度は55億円を計上した。大浦湾側で確認されている軟弱地盤の改良や護岸工事などの費用としている。
 軟弱地盤の改良には県による設計変更の承認が必要で、その行政手続きはまだ始まったばかりだ。にもかかわらず県が申請を認めることを前提とした予算とした。地元の意向を問わずに工事を進めるのは極めて乱暴だ。
 辺野古の軟弱地盤は、埋め立て予定全海域の約4割に当たる大浦湾側66ヘクタールに広がる。難航が予想される大浦湾側の工事について防衛省は18年度予算で護岸建設の経費を盛り込んだが執行できず、19、20年度予算でも計上を見送った。
 19年12月に軟弱地盤問題に対応するため見直した工法では、杭約7万1千本を海底に打ち込み、最も深い所で70メートルまで地盤を改良するという。移設事業完了まで12年、総工費は9300億円と算定している。ことし4月、軟弱地盤の改良工事を盛り込む設計変更を県に提出した。
 地盤改良に関する事業の執行は県に提出した計画変更の承認申請が認められることが前提だ。県は設計変更を審査中で、現在は県に寄せられた意見書1万7857件を精査している。設計変更申請書にある埋め立て地用途変更について「異議はない」とした渡具知武豊名護市長の意見は市議会で否決された。
 玉城デニー知事は辺野古新基地建設に反対する姿勢を示しており、県は申請を不許可とする公算が大きい。不許可の場合は再び法廷闘争となることも想定され、21年度中の着手は見通せない。にもかかわらず、防衛省は既に変更を前提に、事業者に地盤改良の実施設計を発注している。いかにも早手回しだ。
 さらに新基地完成後に設定される周辺建造物の高さ制限55メートルを超える鉄塔の送電線を地中化する経費として56億円も計上した。航空機の安全運航のために設けた「水平表面」(滑走路の中心から半径2286メートル)の範囲内で運航の支障となる鉄塔14本を撤去する。ところが鉄塔と同じく高さ制限を超える沖縄工業高等専門学校の校舎などは適用対象外とするなどちぐはぐだ。
 辺野古新基地建設に伴う辺野古の海の埋め立ては19年2月の沖縄県民投票で7割が反対を示した。設計変更に当たって県に寄せられた意見書のうち、名護市内からの意見書全てが設計変更や基地建設に否定的な内容だったという。民意は明らかだ。軟弱地盤も鉄塔もどちらも「工事が進んでいる」という実績を米次期政権に示したいのだろうか。そのために行政執行をゆがめてはならない。