<社説>20年回顧・基地問題 安保のひずみ露呈した


社会
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 新型コロナウイルス感染症の流行によってさまざまな事柄が停滞・遅延する中で、国が強引に進めたのが米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古の新基地建設だった。防衛省は4月、大浦湾の軟弱地盤の改良工事を盛り込んだ設計変更を県に申請した。

 普天間飛行場からの泡消火剤流出、在沖米軍の新型コロナ感染症クラスター(集団感染)発生など米軍基地の存在が住民の健康や安全を脅かした。日米地位協定が高い壁となって必要な調査が実施されず、情報も提供されない。安全保障のひずみが露呈した2020年であった。
 戦後75年、日米安保条約改定60年の節目となった今年、首相の座に就いた菅義偉氏の口癖を借りれば、政府は「粛々と」沖縄の基地建設を進め、「法治国家」にもとる基地被害があらわになった年でもあった。
 防衛省が設計変更を申請した大浦湾には最大で水深90メートルの海底に「マヨネーズ状」と表現される緩い地盤が広がっている。当初、防衛省は軟らかい海底にケーソンと呼ばれる巨大なコンクリートの箱を並べて護岸を造ろうとしていた。そもそも無理な計画だ。そのために最初の埋め立て申請にはなかった、砂ぐいを7万1千本も海底に打ち込んで地盤を強化する工事を追加した設計変更を認めるよう県に申請した。
 地盤が弱いことを示すデータの一部切り捨てや、照会した専門家会合に示した資料の誤りなど、沖縄防衛局の対応には申請前から問題が多数あった。防衛局は海底に打ち込む砂ぐいの本数や太さなど改良工事の詳しい内容を申請書に明示していない。あくまで建設を「粛々と」進めるための工事ありきの手続きだ。
 基地から派生する問題が私たちの安心・安全を脅かす事故も相次いだ。
 普天間飛行場から4月、有害性が指摘される有機フッ素化合物PFOSなどを含む泡消火剤約22万リットルが流出した。米軍由来の環境汚染にもかかわらず、日米地位協定が壁となって日本側の調査は限定的だった。立ち入り調査は米軍が許す限りでしかかなわず、しかも許可は発生から11日後だった。汚染物質の分析もPFOS、PFOAに限られた。
 米軍のコロナ感染症クラスターでは、日米地位協定によって米軍関係者が入国の際に日本の検疫を免除される問題も浮上した。
 昨年2月の名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票で反対が72%を占めた。コロナ禍の中でも新基地建設現場に通じるキャンプ・シュワブゲート前では抗議行動が続き、県民の民意は変わらない。
 来年はバイデン次期米大統領が始動する。米国の民主党は、自由や人権という価値観を重視する。県は辺野古新基地建設の非合理性と県民の民意、地位協定の不平等性を次期政権に効果的に伝えてほしい。理は沖縄にある。