<社説>20年回顧・文化 継承へ知恵を結集しよう


社会
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 2020年は沖縄の文化状況を考える上で、一つの転換点として記憶される年になるだろう。沖縄初の芥川賞作家、大城立裕氏=享年95=が10月に亡くなったことが、その理由の一つに挙げられる。

 大城氏の生涯は戦前の「ヤマト世」から戦後の「アメリカ世」、復帰後の「ヤマト世」と時代に翻弄(ほんろう)された沖縄の歴史と重なる。時代や人、沖縄戦や基地問題を題材に「沖縄の自画像」を描き続けた。
 日本や米国などからの沖縄への圧力に対し、小説や戯曲をはじめとする言葉の力で県民を鼓舞してきた。
 2月のシンポジウムに登壇した際には、しまくとぅば復活へ標準語としての丁寧語創造を提案した。
 大城氏は「沖縄問題は文化問題だ」と提起し、文化の力を通じて主体性獲得を追求した。県民に託された大城氏からの「宿題」は大きい。大城氏の遺志を継ぐには残された者が努力することが不可欠だ。
 沖縄戦から75年、語り部の安里要江さん=享年99、元ひめゆり学徒で証言員の津波古ヒサさん=享年93=が他界した。語り部たちは沖縄戦体験の継承と平和の創造に大きな役割を果たしてきた。その意義を再認識する年となった。
 体験者から直接、話を聞く機会が減る中、インターネットを使った新たな取り組みも始まった。沖縄国際大の学生らによるプロジェクトが慰霊の日に合わせて特別番組を動画投稿サイトで配信した。沖縄戦体験の継承に向けた新たな手法を模索する必要に迫られている。若者らの知恵と行動力に期待したい。
 音楽、芸能などの関係者には厳しい1年だった。コロナ禍で多くの公演が中止、延期となり、中でも小規模のライブハウスは経営が成り立たなくなった。
 実演の場が失われただけでなく、伝統芸能は師から弟子へと技を伝える稽古もままならない状態だった。
 一部でライブ配信などが実現したのは来年へつながる希望だ。音楽など芸術の力が人々に勇気を与えることを改めて確認する機会にもなった。
 首里城焼失から約半年たった4月、県は首里城復興方針を発表した。財政負担などの課題は残るものの、官民を挙げた取り組みが求められる。龍柱の向きを巡っては新資料も見つかるなど議論が白熱している。細部の議論も大事だが、新たな県民の象徴を作り出すには、大局的な見地からの議論も求められるだろう。
 琉球の正史「中山世鑑(ちゅうざんせいかん)」など3点が国の重要文化財に指定されたことは県民の誇りとなった。琉球史を研究する上で最上の史料との評価がある。現代語訳発行など県民が身近に感じられる工夫も必要だ。
 厳しさの中に一筋の光明もあった2020年は、文化や伝統の継承に向けた課題と向き合い、新たな手法を模索する年でもあった。県民が誇る文化を次代につなぐためにも多くの知恵を結集したい。