<社説>2020年回顧 試練の1年、教訓生かせ


社会
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 このような試練の年になると誰が予想しただろうか。未曽有のコロナ禍は沖縄社会を大きな混乱に陥れた。今なお県民は苦境のただ中にある。さまざまな経験から得た教訓をコロナに打ち勝つ社会づくりに生かしたい。

 県試算では新型コロナウイルスによる県経済の損失額は6482億円に上る。厚生労働省の集計で新型コロナ関連の解雇や雇い止めは1600人に迫っている。
 政府の対応は後手に回った。菅内閣の支持率急落はコロナ対応への国民の不満の表れだ。菅義偉首相が掲げる政策理念「自助」「共助」「公助」の中で「公助」が乏しいのである。窮地に追い込まれた人々を支援する施策が不可欠だ。
 島しょ県である沖縄は医師や病床の確保が県民の生命に直結する。逼迫(ひっぱく)する医療現場への支援と合わせ、コロナ禍で判明した課題を検証したい。経済面では観光依存型で良いのか再考が求められる。
 半面、ネットを活用したリモートワークの試みが広がった。文化・芸能の分野でもネットによる情報発信が始まった。コロナ禍を生きる社会づくりの芽生えだと言えよう。
 基地問題では辺野古新基地建設を強行する政府の専横が今年も目立った。防衛省は大浦湾に広がる軟弱地盤に7万本余のくいを打ち込む土地改良工事を追加する設計変更を県に申請し、次年度予算に55億円を計上した。税金の無駄遣いであり、政府は新基地建設を断念し、県内移設を伴わない普天間飛行場の全面返還にかじを切るべきだ。
 米軍絡みの事故では4月、有害性が指摘される有機フッ素化合物PFOSなどを含む泡消火剤が普天間飛行場から流出し、周辺住民を不安に陥れた。地域住民の安全を脅かす事故は許されない。
 今年上旬、34年ぶりに猛威を振るった豚熱も県民生活に衝撃を与えた。殺処分された豚は10農場で1万2千頭に上る。畜産農家の打撃は大きい。豚肉食は沖縄の食文化には欠かせない。再発防止に向けた防疫体制の確立が急がれる。
 沖縄初の芥川賞受賞者で、戦後沖縄の文化・芸術活動の中軸であり続けた小説家の大城立裕さんが死去した。小説、エッセー、戯曲など多彩な作品を通じて沖縄問題の本質を追究してきた大城さんの文学的遺産を継承していきたい。
 スポーツの分野では、プロ野球西武の平良海馬投手がパ・リーグ新人王選出という快挙を成し遂げた。自転車ロードレースの新城幸也選手が東京五輪代表に決まった。既に出場が確定している空手の喜友名諒選手と合わせて五輪での活躍が期待される。
 コロナ禍の収束の道筋はまだ見えない。試練は来年も続く。県民個々に求められるのは命の支え合いであろう。それは75年前の沖縄戦の惨禍の中で得た教訓でもあった。苦境の中で、誰一人取り残さず命を守る沖縄の「共助」の精神を確認したい。