<社説>米、パリ協定復帰 脱炭素へ2大国の協調を


社会
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 地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への米国の復帰を世界中が歓迎している。バイデン新大統領の決断を評価する。

 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量は1位が中国、2位が米国だ。合計すると世界排出量の約4割を占める。その2国が、ようやく足並みをそろえることになった。2大国は脱炭素社会の実現へ向けて国際協調の先導役となってもらいたい。
 トランプ前政権のパリ協定離脱は世界を失望させた。環境対策による負担増を嫌う企業の支持を得るため、地球規模の課題に背を向けたからだ。内向きな姿勢は米国への信頼を損ねた。
 バイデン氏が新政権発足初日にパリ協定への復帰を申請したことは、環境問題を重視する政権の姿勢を示しただけでなく、国際的な信頼を取り戻す効果も十分にあった。
 バイデン氏は大統領選を通じて、脱炭素社会の実現に向けた200兆円を超えるインフラ整備への投資や、2050年までの温室効果ガス実質ゼロの目標を掲げている。就任100日以内に主要な排出国の首脳を招いた会議を開く方針も示している。
 昨年12月に開かれたパリ協定採択5年を記念するオンライン会合では、「60年に排出ゼロ」を掲げる中国の習近平主席も、国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を30年までに05年比で65%以上削減するとして、従来の目標引き上げを表明した。
 「温室効果ガス50年ゼロ」の国際目標に向かい、世界各国が意志を一つにしている。実現を目指す土台は整った。
 バイデン氏は脱石油を進めるため、連邦政府所有地での新たな石油・天然ガス掘削を認めない方針も示している。米中の2国が今後どのように具体的な方策を打ち出していくか注目したい。
 一方で米巨大IT企業のアップル、マイクロソフト、アマゾンも30~40年にCO2排出ゼロを打ち出している。官民による米国主導は世界的潮流になりつつあるのだ。
 「50年ゼロ」の目標を掲げる日本も、この流れに乗り遅れてはならない。化石燃料や原子力に頼るエネルギー政策から脱し、再生可能エネルギー重視の政策にかじを切る絶好の機会である。
 これほどまでに世界が危機感を抱く理由はデータで示されている。20年の世界の平均気温は16年と並ぶ過去最高を記録した。
 16年はペルー沖の海水温が上がる「エルニーニョ現象」が一因だったが、20年は海水温が下がる「ラニーニャ現象」が続いた。世界気象機関(WMO)は「人間の活動が引き起こす気候変動が自然の力より大きくなった」とみている。
 温暖化対策に猶予はない。自国優先主義が分断と対立の火種であることは米前政権が残した教訓だ。先進国、途上国の垣根を超え、協調の道を追求したい。