<社説>第3次補正予算 コロナ対策に組み替えよ


社会
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 なぜ新型コロナウイルス感染防止対策より、観光支援事業「Go To トラベル」にこだわるのか。

 本年度の第3次補正予算案は衆院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。
 感染収束後の経済対策に軸足が置かれすぎている。Go To事業を削って、窮地にある医療や個人、事業者への支援などさらなるコロナ対策費に組み替えるべきだ。
 政府が第3次補正予算案に盛り込んだ経済対策の総額は19兆1761億円。このうち新型コロナ感染症の拡大防止策は約2割(4兆3581億円)にすぎない。
 残りは「Go To トラベル」(約1兆円)や「Go To イート」(515億円)、脱炭素社会実現に向けた基金創設(2兆円)など成長戦略や景気刺激策に重点配分されている。
 補正予算案の最大の問題は、感染拡大が拡大し緊急事態宣言を出す前(昨年12月15日)に閣議決定されていることだ。医療が逼迫(ひっぱく)し自宅療養していた感染者が容体が急変しても搬送先が見つからず死亡するケースが増えている。補正予算案は、こうした深刻な状況に対応できていない。
 菅義偉首相肝いりのGo To事業の停止や緊急事態宣言の発出が遅かったため、感染拡大を招いたと批判を浴びている。「政治によって救えた命が救えなかったかもしれない。『公助』で救えなかった責任を感じているか」(立憲民主党の辻元清美氏)という指摘はもっともだ。
 首相は「責任者として大変申し訳なく思う」と陳謝した。だがGo To事業や脱炭素化の基金創設を削除し、医療機関や生活困窮者への支援に振り向ける予算組み替えを求めた野党提案は与党に退けられた。
 一方でGo To事業再開の前提となるコロナの収束が見通せないのに、首相は「しかるべき時期に事業を再開するときに備えて計上する」と譲らなかった。
 1次補正予算で確保したGo To予算のうち1兆円近くが年度内に使いきれないという見方がある。加えて予備費から3119億円を確保している。今回の3次補正でさらに約1兆円を積み増す根拠はどこにあるか。衆院予算委員会で議論は深まらず数の力で押し切られた。
 3兆円余りが計上された「防災・減災、国土強靭(きょうじん)化」も、補正に盛り込む緊急性があるのか疑問である。立憲民主党の江田憲司氏は、自民党幹事長の「二階氏の影を感じる」と述べ、二階氏への配慮が影響したとの見方を示した。事実とすれば問題だ。
 一度決めたら譲らないという菅首相のかたくなな姿勢は、予算委員会でも目立つ。新型コロナ対策は国民の協力が不可欠だ。異論や批判を排除する姿勢を改めなければ乗り切れない。