<社説>新START延長 多国間化へ中国も参加を


社会
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 米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が初の電話会談で、2月5日の期限切れが迫っていた米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の5年延長で合意した。

 両国間に唯一残った核軍縮の法的枠組みを維持したことは、冷戦期の軍拡競争に世界を逆戻りさせないための歩み寄りとして評価したい。
 しかし、トランプ前政権下で核軍縮の流れは全体としては後退している。保有国の核開発を規制する新たな枠組みを再構築するため、国家間の信頼醸成を深めていかなければならない。特に中国の核軍縮交渉参加は不可欠で、新STARTも米ロ2カ国にとどまらない多国間化が必要だ。
 新STARTは、米ロで配備する戦略核弾頭数を1550発以下に削減することが柱で、両国は既に達成している。だがトランプ前政権は昨年、プーチン大統領が呼び掛けた「無条件の延長」を拒否した。
 延長の条件として、ロシア戦術核の数量公表と制限、核軍縮交渉への中国の参加などを盛り込んだ枠組み合意を求めたが、ロシアは応じず、協議は難航していた。
 米国の政権交代によって、かろうじて失効を回避した。バイデン新政権は「核兵器なき世界」を掲げる。だが世界の9割を占める米ロの核兵器削減の道筋は見えていない。
 米ロ間で18年に中距離核戦力(INF)廃棄条約が破棄されたほか、新STARTの対象とはならない戦術核の増強を図っている。
 米国はINF廃棄条約の失効により、中距離ミサイルの開発再開にかじを切った。新たに開発する核弾頭搭載可能なミサイルを、対中国の前線として日本に、中でも南西諸島に配備させる見方が強まっている。沖縄がミサイル戦争に巻き込まれることは断じて許してはいけない。
 新STARTが失効すれば、大国間の軍拡だけでなく非保有国の反発も避けられず、北朝鮮の非核化などにも負の影響は避けられなかった。新STARTの延長はぎりぎりで望みをつないだ。
 一方、条約で縛られる米ロをよそに、中国は中距離弾道ミサイルを中心に核戦力を増強させ、相互不信と軍拡競争を招いている。中国との協議は不可欠であるが、悪化した米中関係はバイデン政権になっても改善が見通せない。中国は大国を自覚するならば、核軍縮交渉の枠組みづくりに積極的に加わるべきだ。
 22日には、核兵器の開発や保有、使用を全面的に禁じた核禁止条約が発効した。核保有国や、日本など保有国の「核の傘」の下にある国々は批准していないとはいえ、核兵器は国際法違反だという認識が広がっている。
 核戦争などによる地球滅亡の日を深夜0時に見立てた「終末時計」は、過去最短の「100秒」である。核軍縮・廃絶に向けた国際協調の機運を、より大きなものへと高めていきたい。