<社説>コロナ法衆院通過 疑念は残されたままだ


社会
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 新型コロナウイルス対策を強化するためのコロナ特別措置法と感染症法の改正案が衆院を通過し、3日には参院で成立する見込みだ。与野党の協議で修正が図られたが、強権によって患者を抑え込むことに変わりはなく、国民が納得できる内容とは言いがたい。疑念は残されたままだ。

 与野党間の修正協議によって感染症法に盛り込まれていた入院を拒む者への刑事罰は削除され、行政罰である50万円以下の過料に改めた。
 感染症法の改正案で人権上最も問題とされた刑事罰が修正協議によって削除されたのは当然である。それでも行政罰の規定は今なお国民との間に乖離(かいり)がある。
 刑事罰の削除について、立憲民主党の枝野幸男代表は「満点ではないが、前科者をつくるとんでもない部分を担当者の尽力で外せた」と成果を強調した。しかし、このような不十分な修正で納得してはならない。
 しかも、感染症法に罰則を導入する改正を論議した厚生労働省の専門部会で、委員の賛否にかかわらず、賛成の方向でまとめる「台本」を事務局が用意していたことが国会審議で判明している。罰則ありきで政府が法改正を進めようとしていたことは許しがたい。結局、国民の疑念と批判を浴びることになった。
 そもそも、今日のコロナウイルス感染症のまん延状態の一因に、ことごとく後手に回った政府の対応があるのではないか。
 稲正樹・元国際基督教大学教授ら70人余の憲法学者が出した声明で、コロナ特措法と感染症法の改正案に対し「政府の失策を個人責任に転嫁するものだ」と批判した。刑事罰を削除する一方で行政罰を科すことに関しても「修正がなされても、『罰則』を設ける妥当性の問題は解決されない」と断じている。国民感情に合致した指摘だと言えよう。
 コロナ特別措置法で新設する「まん延防止等重点措置」に関しても依然としてあいまいな点がある。
 緊急事態宣言の前段階に当たる「まん延防止等重点措置」の実施で感染状況に関する客観的基準を提示するよう付帯決議を採択した。恣意(しい)的な運用を避けるための対応だが、本来ならば特措法の本則で明記することで客観性のある厳格な運用を担保すべきだ。
 緊急事態宣言中の時短命令に応じなかった事業者への過料は50万円以下から30万円以下に修正されたが、それでも事業者に罰を科すことに変わりない。
 事業者への財政支援を行政に義務付けたが、具体性に乏しい。これではコロナ禍の中で経営難にあえぐ事業者は納得できない。
 修正協議で一定の前進があったものの、患者や事業者に罰則を科すという基本的な性格はそのまま温存された。このまま成立を許していいのか。与野党の慎重な対応を求めたい。