<社説>2021年度県予算案 脱コロナ禍の基礎築こう


社会
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 コロナ禍で痛手を負った県民生活を立て直す基礎となる予算案である。円滑に予算を執行する玉城県政の適切な行政運営が求められる。

 県の2021年度の一般会計当初予算案が決まった。20年度比398億円(5・3%)増の7912億2600万円で、過去最大規模だった16年度当初予算7541億5600万円を大きく上回る。新型コロナウイルス感染症対応経費は全体の1割に近い約752億円を計上した。
 県内でコロナウイルス感染が確認されて1年になる。この間、県独自の緊急事態宣言が3度にわたって発令されたが、いまも収束の見通しが立たず、県民生活の混乱が続いている。観光業を中心とした県経済への打撃は深刻だ。
 コロナ禍のダメージから速やかに脱することが県政の最重要課題である。来年度予算で医療、検査体制の強化や水際対策、県産品の消費喚起に取り組む。脱コロナの施策は幅広く、きめ細かく展開されなければならない。県民のニーズを見定めた予算編成で期待に応えてほしい。
 来年度予算案では玉城県政カラーを打ち出した事業もある。玉城デニー知事が推進を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の推進事業に2834万円を計上した。SDGsで設定した17目標の達成を目指すことは沖縄の将来展望を描く上でも有益だ。
 新たな沖縄振興計画の策定でもSDGsは重要な柱となる。玉城知事が掲げる「持続可能な沖縄の発展」「誰一人取り残さない社会の実現」という理想の具現化に向けた取り組みが求められる。
 平和を希求し、沖縄戦体験を継承する平和行政では、首里城地下の第32軍司令部壕の保存・公開検討委員会の運営費と史実面から解明する実態調査などに要する経費として3102万円を計上した。
 第32軍壕は1960年代に那覇市や沖縄観光開発公社が調査を実施した。90年代にも県が調査し、保存公開は可能との結論を導き出している。その際の調査報告書によると司令官室などがある司令部壕中枢部の近くまで試掘調査が進んでいた。32軍壕は沖縄戦の史実を継承する上で重要な戦争遺跡である。保存・公開に向け、今度こそ本腰を入れて取り組むべきだ。
 来年度予算案は最高規模だが、新型コロナの影響による経済悪化で、県税は過去最大だった20年度から189億円減の1204億2800万円だった。県税の落ち幅はリーマンショックの影響を受けた10年度のおよそ2倍に達する。地方交付税は前年度比56億円増の2154億円、国庫支出金は前年度比93億円増の2045億円となった。例年とは異なる予算編成である。
 「アフターコロナ」と次期振計を見据える上で重要な年度となる。県は議会審議などを通じて県民が納得できる説明を尽くし、次年度の方向性を示してほしい。