<社説>止まらない低空飛行 全空域で飛行禁止せよ


社会
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 県の抗議にもかかわらず、米軍機は低空飛行を続けている。日本政府は低空飛行を規制する日米合同委員会合意すら順守させようとしない。

 住民が安心して暮らす権利より軍事を優先する姿勢は到底受け入れられない。米軍が合意を守らないなら、政府は沖縄の全空域で飛行禁止を求めるべきだ。国民の命と財産を守るため、主権国家として当然の振る舞いである。
 米空軍のMC130J特殊作戦機による低空飛行は、昨年12月に慶良間諸島で目撃されて以来、年が明けても相次いでいる。県は2月3日、米空軍第353特殊作戦群の司令官に抗議した。
 しかし翌4日、国頭村の辺戸岬周辺でMC130Jとみられる大型機の低空飛行が確認された。5日に金武町沖、そして10日には再び辺戸岬で確認されている。
 特殊作戦群によると、MC130Jは、敵陣や敵が支配する区域に入り込み、部隊や装備を輸送するという。低空飛行は、航空機を探知するレーダーの捕捉を避けるための訓練とみられる。
 軍事専門家は「地上の特殊部隊支援や、超低空でのヘリコプターへの空中給油実施などを想定しているのだろう」と分析する。「有事に備えて上陸地点や飛行経路を確認しているのではないか」(山本章子琉球大准教授)という見方もある。
 米中対立によって軍事的緊張が増し、有事に備えた実戦さながらの訓練が、県民の日常生活空間で繰り広げられている。異常な事態である。
 日米合同委員会は1999年、在日米軍が日本の航空法と同様の高度規則を守ることで合意している。
 岸信夫防衛相は、米軍にこの日米合意の順守を求め「周辺住民に与える影響を最小限にとどめるよう申し入れた」と述べるにとどまっている。
 「合意を順守している」という米軍説明をうのみにし、日本側は高度規制の合意が守られているかどうか直接確認していない。防衛省は「(米軍がそう)言う以上、守っているはずだ」という立場を取り、岸防衛相は低空飛行中止を要請するかどうか明らかにしていない。無責任極まりない対応だ。
 日米合意はしばしば守られない。例えば、米軍は航空機騒音規制措置(騒音防止協定)で規制されている午後10時以降の夜間飛行を繰り返している。米軍機の訓練激化によって、騒音だけでなく墜落や小学校に部品を落下させるなどの危険性を高めてきた。
 訓練を最優先させる軍の論理と、日本政府の不作為により県民の命と暮らしが危険にさらされている。国民の命を守るため、これまで指摘してきたように日米地位協定の改定が不可欠だ。
 ドイツやイタリアなど欧州のように自国の法律を米軍に適用させ、活動をコントロールしない限り根本的な解決にならない。