<社説>「嫡出推定」見直し 無戸籍生まない法改正を


社会
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 子どもの父親を決める民法の「嫡出推定」規定について、法制審議会の部会が見直し案をまとめた。

 離婚後300日以内に生まれた子を「前夫の子」とみなす現在の規定に例外を設け、母が出産時点で再婚していれば「現夫の子」とする内容だ。現行規定は無戸籍の子を生む主要因となっている。早急に法改正してほしい。
 「嫡出推定」は、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子とみなすと規定する。同時に離婚時に妊娠している女性にのみ100日間の再婚禁止期間が課されている。
 今回の見直し案は、現行規定は残しつつ、例外として出産時に再婚していれば現夫の子とする新たなルールを導入する。再婚禁止期間は不要となった。
 生まれた子との父子関係を否認する「嫡出否認」制度は前夫のみに認められていたが、未成年の子とその代理として母にも認める。
 離婚後300日以内に生まれた子を「前夫の子」とみなす規定は、無戸籍者を生み出す大きな要因として、十数年前から社会問題化していた。
 現行規定は女性の妊娠時点で婚姻関係にある男性を父とする規定だ。しかし関係は壊れているのにさまざまな理由で離婚が遅れ、別の男性と親密になることがある。暴力を振るう夫から妻が逃れ、離婚協議が終わらないまま新たなパートナーとの間に子を授かる場合もある。しかし子が前夫の子となるのを避けるために出生届を出さないことがあり、無戸籍の子が生まれてしまう。
 戸籍がないと修学や免許・資格取得、銀行口座開設や各種手続きに至るまで大きな支障を来す。昨年、大阪府で高齢女性が餓死した事件では同居の40代息子も共に無戸籍で行政の支援を得られなかった。
 法務省によると無戸籍者は901人おり、前夫が父となるのを避けるため母が出生届を出さなかったケースが73%に上った。支援団体は1万人はいるとみている。
 現行規定ができた明治民法下では子の利益のために父子関係を確定させることが必要だった。しかしDNA鑑定により父子の血縁関係を確認できるようになった。父子関係がないと訴えを起こせる嫡出否認も夫の側にしか認められなかったのは、家父長制の下で女性側に決定権がなかった現れだろう。子とその代理である母が嫡出否認の権利を得たのは当然のことだ。
 ただ、見直し案で300日規定の例外として救済されるのは再婚したカップルだけだ。再婚していない場合は例外が適用されず、課題が残る。
 結婚についての考え方や家族のあり方も多様化しているにもかかわらず、事実婚や何らかの事情で結婚に至らなかったケースは前夫の子と推定されてしまう。婚姻を基準とする考え方にも限界がある。時代に合わせた最善の方法を検討していかねばならない。