<社説>総務省幹部ら処分 身内に甘く話にならない


社会
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 首相の長男が絡む「官業癒着」にもかかわらず、虚偽答弁によって国会を侮辱した。その揚げ句、身内に甘い処分では話にならない。

 菅義偉首相の長男・正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」による接待問題で、総務省は幹部ら9人を減給や戒告の懲戒処分にするなど計11人を処分した。国家公務員倫理規程で禁じる「利害関係者からの接待」に該当すると判断した。
 しかし、倫理規定違反による処分だけで幕引きさせてはならない。官業の癒着によって行政の公平性がゆがめられなかったか、贈収賄の疑いはないのか、他の業者からの接待はなかったのか。これらの疑惑は解明されていない。
 第三者委員会による徹底調査を求める。同時に山田真貴子内閣広報官だけでなく、正剛氏や業界関係者も国会招致して真相を解明すべきだ。
 特に山田氏は総務省の総務審議官だった2019年11月に、正剛氏が勤める「東北新社」から和牛ステーキなど約7万4千円に上る高額な飲食接待を受けていた。菅首相は山田氏を厳重注意し、本人は給与の一部を自主返納する。
 山田氏は安倍前政権で女性として初の首相秘書官を務め、菅政権で女性初の内閣広報官に抜てきされた。山田氏が「責任を痛感」し、辞任の意向を伝えたのに、厳重注意と給与返納では甘くないか。
 総務省は、副大臣をトップとする違法接待の検証委員会を設置する。しかし、森友学園を巡る財務省の公文書改ざん問題のように、当該省庁任せの「身内」の調査で疑惑は解明されないだろう。
 武田良太総務相は24日の会見で首相長男について「会食で特別の役割を担っている事実は確認できていない」と述べた。検証委員会発足前に早くも首相への配慮があったとの見方を否定した。
 接待問題発覚後、菅首相は「長男とは別人格」と国会で答弁したが、説得力に欠ける。菅氏は総務副大臣と総務相を歴任し省内に強い影響力がある。総務相時代に自身の政策に異議を唱えた課長を更迭したこともあり、正剛氏は総務相当時の秘書官だ。「別人格」では済まされない。
 正剛氏の背後に菅氏の影響力を感じた結果、官僚側が接待に応じ官と業の癒着が広がったのではないか。事が表沙汰になると、国会で虚偽答弁をして逃れようとする。
 安倍政権時代も安倍氏の妻や友人が関係する森友・加計学園問題で、官僚の虚偽答弁が繰り返された。これも安倍氏の威光を忖度(そんたく)した結果だろう。「桜を見る会」前夜祭にについては、安倍氏が118回も虚偽答弁を重ねた。
 安倍前政権から菅現政権まで国会軽視が続いている。主権者である国民を冒涜(ぼうとく)する行為である。繰り返される官僚による政治家の忖度と、業界との癒着の構図を断ち切らない限り、この国に未来はない。