<社説>東京五輪聖火リレー 感染防止最優先で判断を


社会
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 東京五輪組織委員会が、25日にスタートする国内聖火リレーの新型コロナウイルス感染症対策を発表した。観客には居住する都道府県以外での観覧は控えてもらうほか、沿道の密集を避けるためネットのライブ中継の視聴を促す。著名人は入場制限ができる競技場などで走る方針だ。

 聖火リレーを巡っては、島根県の丸山達也知事が、政府や東京都の新型コロナ対策が不十分であることを理由に県内のリレーを中止する意向を表明したり、芸能人が参加を辞退したりするなど疑問視する見方が広がっている。
 新型コロナ感染者の全国合計数は減少傾向にあるが、収束にはほど遠い。国民へのワクチン接種がいつ完了するかも未定で、感染が再び拡大する懸念は拭えない。五輪だけでなく聖火リレーも感染防止を最優先させ、延期や中止を含めて柔軟に判断すべきだ。
 五輪組織委は「安全最優先で進めていく」として感染防止に万全を尽くす考えだが、全国や地域のリレー期間中の感染状況を予測するのは難しい。五輪本番の状況予測も同様だ。組織委関係者は、聖火リレーを大会に向けた「リトマス試験紙」と位置付ける。リレーを通して感染が広がるような事態になれば、五輪そのものの開催判断に影響する。
 五輪開催ありきだと、無観客など安全な運営方法に議論が集まりがちだが、重要なのは感染の抑制と世論の支持だ。聖火リレーも、これらを基に開催可否を判断すべきだ。
 感染の抑制は引き続き予断を許さない。頼みの綱はワクチンだが、高齢者への接種が4月に始まるものの、多くの自治体で65歳未満の住民が接種できるのは7月以降の見通しだ。五輪開会式が行われる予定の7月23日の段階で大半の国民が接種できていない。
 共同通信が1月に実施した世論調査では、東京五輪の「中止」と「再延期」を合わせた見直し派は80・1%に上った。その後、五輪組織委会長を務めていた森喜朗氏が女性を蔑視する発言をした。さらに森氏は聖火リレーの運営方法について「有名人は田んぼを走ったらいいんじゃないか」とも述べた。五輪や聖火リレーに対する国民の歓迎ムードは一層冷めているだろう。
 コロナ禍は地域によって事情が異なる。聖火リレーの費用負担を疑問視した丸山島根県知事の見解は理解できる。聖火リレーは5月に沖縄県内も通過する予定で、沿道の密集回避のため走行予定時刻は直前まで非公表だ。感染抑制は県内でも問われる。
 五輪では選手同士の交流は厳しく制限される予定だ。異なる国や地域の人と交流するという五輪の理念は果たせない。日本各地の魅力を国内外に発信するという聖火リレーの目的も限定的になる。それらの側面からみても、開催に前のめりになるべきではない。アスリートだけでなく国民の安全を大切にする姿勢や判断こそが肝要だ。