<社説>本島南部の土砂採取 道義に反する計画撤回を


社会
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 沖縄戦で犠牲を強いられた県民や戦死した兵士の遺骨が含まれる本島南部の土砂を、日本政府は本当に名護市辺野古の新基地建設に使用するつもりなのか。人道上許されない行為である。埋め立て土砂の採取計画を撤回し新基地建設の中止を求める。

 玉城デニー知事は開会中の県議会で「悲惨な戦争を体験した県民やご遺族の思いを傷つける」と述べた。県は条例制定も視野にあらゆる手だてを尽くして、道義に反する計画を断念させるべきだ。
 沖縄防衛局は昨年、新基地建設に関し公有水面埋立法に基づく設計変更を県に申請した。このうち埋め立て土砂の県内調達量を増やし、当初計画の約6・7倍に変更した。県内分の7割超が南部地区(糸満市・八重瀬町)だ。
 南部地区は沖縄戦最後の激戦地である。県民(軍人・軍属含む)の犠牲のうち、6割が南部の戦闘で占める。多くの遺骨が残され、収集作業は今も続けられている。
 沖縄戦体験者から「戦争で殺された人(の遺骨)が土に混じっているのに、基地建設の埋め立てに使うことは、その人を2度殺すことと一緒」「友を失った地だ。(米軍基地に使うのは)言語道断」という声が寄せられている。
 菅義偉首相は参院の代表質問で共産党の小池晃氏に「採石業者において遺骨に配慮した上で土砂の採取が行われる」と述べた。岸信夫防衛相は採石業者との契約時に遺骨の取り扱いを明記する考えを示し「採石業者によるしっかりした対応を求めていく」と強調している。
 遺骨収集には専門的な知識が必要である。沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんは「遺骨は石灰岩や土の色と同化している。見た目ではほとんど分からず、手で持った重さでようやく判別できる」と語っている。首相と防衛相は遺骨の扱いを専門ではない業者任せにしているが無責任だ。
 参院代表質問で小池氏が「戦没者の血が染み込み、遺骨の眠る地域から土砂を採取し、米軍基地の建設に使用することに痛みを感じないのか」とただすと、首相は「厚生労働省と県が役割を分担してご遺骨の収集を進めている」と説明した。
 この答弁は自己矛盾である。右手(厚労省)で遺骨を収集しながら、左手(防衛省)で遺骨を含む土砂を海に投げ込むようなものだ。
 「ガマフヤー」の具志堅さんは土砂採取計画の断念を求め1日からハンガーストライキを始めている。
 糸満市米須で土砂採掘業者が開発を届け出た。県は自然公園法に基づいて採掘を禁止・制限する措置命令が出せるかどうか検討している。具志堅さんは、遺骨が残っている可能性が高い南部地区の未開発緑地帯での土砂・石材の採取を禁止する条例制定を県議会に陳情した。一考に値する。県議会で議論してほしい。