<社説>県外でも低空飛行 全国の自治体と連携を


社会
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 県内で相次ぐ米軍機の低空飛行訓練が、全国でも多発している。2020年度に全国の地方議会が訓練の中止を求めて衆議院に提出した意見書は13件に上る。

 国民の安全を守れず低空飛行を放置している政府は、とても主権国家とは言えない。沖縄県は全国の地方自治体と連携して、この異常事態を即時中止させるよう取り組みを強化してほしい。
 在日米軍の低空飛行訓練ルート「オレンジルート」直下の高知、愛媛の両県は、以前から低空を飛行する米軍機が確認されていたが、20年度は目撃情報の件数が突出して多かった。
 愛媛県は20年度の米軍機の目撃情報が今月2日時点で310件に上る。1994年度の集計開始以来、最も多い。高知県も過去最多だった93年度の309件に次ぐ、252件。このため20年3月から10月にかけて両県内の13議会が意見書を提出した。
 奄美大島でも在沖米軍機とみられる軍用機の低空飛行が相次いでいる。奄美市で確認された低空飛行の回数は20年4~9月の半年間で55件と、19年度の2.7倍に上った。
 毎日新聞は、東京の新宿駅や渋谷駅周辺、浜松町周辺のオフィスビル街で米軍ヘリが低空飛行を繰り返していると報道している。
 日米合同委員会は、日本の航空法と同一の基準の適用を合意している。しかし、日米地位協定の特例法で日本の航空法は適用されず、日米合同委の合意は事実上「努力義務」のようなものだという。
 日本の航空法は人口密集地の場合、航空機から半径600メートル内にある最も高い建物の上端から300メートルの高さを「最低安全高度」と定めている。エンジンが停止した際に地上や水上の人や物に危険を及ぼすことなく着陸できる高度のことだ。最低安全高度以下だと乗組員だけでなく地上の人々の命を危険にさらす。
 全国知事会は昨年11月、米軍機の低空飛行訓練に対して必要な実態調査を行うほか「人口密集地域等の上空の飛行回避」や、地位協定を見直し航空法など「国内法を原則として米軍にも適用させること」などを求めた。
 しかし、防衛省は4日「(低空飛行の事実を)判断するのは困難だ」との認識を示した。理由は米側から回答が来ていないからだという。
 全国知事会が提言しているように、なぜ実態調査に乗り出さないのか。なぜ地方議会の意見書を正面から受け止めないのか。日本の空で起きている異常事態であるにもかかわらず、あきれるほど弱腰だ。
 米軍が駐留するイタリアでは低空飛行訓練を原則禁止し、国内法の順守を義務付ける協定を結んでいる。
 訓練を最優先させる米軍の論理がまかり通り、政府が国内法を適用させられない以上、沖縄県は全国の地方自治体と連携し日本の空域で低空飛行禁止を求めるべきだ。