<社説>香港選挙制度見直し 民意封じは容認できない


社会
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 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は、香港の選挙から民主派を排除する制度見直しの決定案を反対票ゼロで採択し閉幕した。

 香港に「高度の自治」を認めた「一国二制度」が形骸化するのは必至だ。民意を封じる見直しは容認できない。
 選挙制度見直しは、香港政府トップの行政長官を選ぶ選挙委員会の規模を1200人を1500人に拡大する。立法会の定数を現行の70議席から90議席に増やし、選挙委枠を設ける。民意を反映しやすい直接選枠(35議席)は減らされるもようだ。選挙委は親中派が多数なので、親中派が常に政界の圧倒的多数を占める仕組みを整える。
 李克強首相は「愛国者による香港統治を堅持し、一国二制度の長期的な安定を確保する」と述べた。「愛国者」とは、中国の国家制度や共産党が指導する社会主義を守ることだという。しかし、こうした要件は極めてあいまいで、中国当局の胸先三寸で「愛国者」か「反中分子」か振り分けられる。
 見直しの背景に、香港の区議会(地方議会)選挙で民主派が8割超の議席を獲得し、民主派支持者が多い香港の若者の中国離れに中国共産党・政府が焦りや懸念を深めたことが考えられる。
 香港の憲法に当たる「基本法」は、香港返還に合意した1984年の中英共同宣言の精神を反映し「社会主義の制度、政策を実施しない」と明記し「一国二制度」を認めた。外交・国防を除く分野で「高度の自治」を認めると規定している。行政長官選挙について、民主的な手続きで「普通選挙」を導入する目標を規定している。
 香港政府の林鄭月娥行政長官は普通選挙導入の「目標は変わっていない」と発言。全人代による香港の選挙制度見直し決定について「制度の欠点を補うものだ」と強調した。
 しかし、民主派をあらかじめ排除する見直しは、基本法の目標に逆行することは明白だ。そもそも香港の民意を代表する立法会で審議することなく、全人代が決定し、香港側に従わせるやり方こそ、香港の自治権の侵害である。
 中国共産党政権は昨年、香港国家安全維持法(国安法)をつくって民主派政治家を相次いで排除した。2月に民主派の47人が国安法違反の罪で起訴された。香港では何が国安法違反か分からず自主規制が広がっている。まさに「恐怖による統治」である。
 国安法で抗議行動を封じ、今回の選挙制度見直しによって民意を排除する。民主派を弱体化させて香港の政治を中央政府の完全な管理下に置く総仕上げと言える。
 中国は批判に対して「内政干渉」だと一蹴するが、国際的な公約や法よりも党の権威を優先させる中国を国際社会は容認しない。
 何度も繰り返すが、香港の自治は香港人の手で行わなければならない。