<社説>東海第2原発判決 再稼働には無理がある


社会
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 茨城県の日本原子力発電東海第2原発を巡る訴訟で、水戸地裁は重大事故発生時の住民の避難計画に不備があるとして運転を認めない判決を言い渡した。原発の運転の可否が争われた同種の訴訟にはない、新たな視点での司法判断となる。

 東海第2原発は東京に最も近い原発で、半径30キロ圏内に全国最多の94万人の住民を抱える。これだけの人口密集地での原発立地は世界に例がない。2011年の東日本大震災で被災し、自動停止した。
 稼働開始から40年超の「老朽原発」でもある。東京電力福島第1原発事故を受けた法改正で、原発の運転期間は原則40年とされた。原則の40年を超えて再稼働を目指す原電は、22年末をめどに安全対策工事を終え、早い段階での再稼働を目指す。
 原発の安全対策は国際原子力機関(IAEA)の基準である「深層防護」という考え方に立つ。安全対策を耐震性など5段階に分け、ある段階で機能しなくても、次で被害を防ぐ考え方だ。判決はその考え方に沿って、第1~4段階の安全性は認めたが、第4段階が破られて大量の放射性物質が漏れた際の第5段階である避難計画が、14自治体のうち9自治体で策定できていないと指摘した。
 計画のある県と5自治体でも第2の避難先や代替避難経路の確保などの検討課題が残るとして「体制が整っているというにはほど遠い」と結論付けた。首都圏にある人口密集地での立地そのものを疑問視したと言っていい。
 原発事故の際の住民避難の困難さは福島第1原発の事故が浮き彫りにした。住民は避難情報も放射線量などの科学情報も少ない中、自己判断の避難を強いられた。
 茨城県の推計では東海第2原発の事故時、実際の避難には5キロ圏内だけでも400~500台のバスと800~千台の福祉車両が必要だという。人口の85%は自家用車で避難する想定で大渋滞が懸念される。避難計画があったとしても現実に対応できるだろうか。半径30キロ圏内の住民の避難は可能だろうか。
 避難計画づくりも自治体任せで、国の役割は「支援」にとどまる。原子力規制委員会も計画の具体的内容には関知しない。こうした仕組みの不備が避難計画策定の遅れにつながっている。
 福島第1原発事故から10年がたち、ひとたび過酷事故が起きた場合の復興の難しさは改めて共有された。
 判決はそもそもこの場所で原発を動かせるのか、という根本的な問題を突き付ける。実効性のある避難計画策定は「今後も相当困難」と将来の見通しまで踏み込んでいる。計画策定すらめどが立たないとすれば、再稼働は断念せざるを得ないのではないか。原電は控訴したが、国は住民の生命を守る観点からエネルギー政策を見直し、脱原発に向かうべきだ。