<社説>安保法制施行5年 平和外交にこそ力を注げ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 憲法学者から違憲との指摘がある集団的自衛権行使を可能にし、日米の軍事一体化を進めるなど、さまざまな課題をはらむ安全保障法制は、29日で施行から5年を迎えた。

 この間、自衛隊と米軍の一体運用は常態化し、太平洋に面するオーストラリアだけでなく、欧州を含めた形で軍事的な連携が際限なく広がる。
 海洋進出を図る中国や弾道ミサイルを発射した北朝鮮など、東アジアの安全保障環境に懸念は絶えない。しかし軍事的な力に頼るばかりの安全保障策でよいのか。
 有事となれば真っ先に狙われるのは国境の島であり、米軍、自衛隊基地が集中する沖縄であるのは疑いない。76年前、軍民混在の地上戦を経験した県民は「軍隊は住民を守らない」という教訓を得た。
 政府は違憲の疑いが濃い安保法制を見直すだけでなく、国民を守るため平和外交にこそ力を注ぐべきだ。
 安保法制で可能になった任務では、集団的自衛権の行使こそなかったが、平時に他国軍の艦艇などを自衛隊が守る「武器等防護」は19年に14件、20年に25件実施している。防衛省は件数と概要のみ公表し、詳細は明かしていない。
 現状は米軍だけを対象にしているが、菅義偉首相はオーストラリアのモリソン首相との昨年11月の会談で、オーストラリア軍も「武器等防護」の対象に追加するよう調整を進めることで合意した。
 「武器等防護」は地理的制約がなく自衛隊が世界中で活動できる。しかし詳細な情報を公開せず、国会も十分関与できない。これでは自衛隊を統制できない。
 当時の安倍晋三首相は国会と国民に説明責任を果たすと語ったはずだ。「抑止力」を名目にした自衛権が際限なく広がれば、国民が知らないうちに戦争に巻き込まれる可能性がある。
 国民に重要な情報を開示しない中で各国軍隊との訓練が日常化すれば、沖縄を拠点とする米軍の活動もさらに激しくなる。沖縄は現状でも過重な負担を強いられている。最近では米軍の低空飛行や物資つり下げなど危険な訓練も常態化する。自衛隊の先島配備も着々と進みつつある。
 法そのものの問題も多いが、成立過程で残した立憲主義や法治主義の否定は現在にもつながる。集団的自衛権行使を違憲とする専門家の声に耳を傾けず、政権の意に沿う人物を登用し「法の番人」である内閣法制局の見解さえも変えてしまった。
 安倍前政権が残した負の遺産は、政権に異議を唱える学者を排除するという点で、現政権の日本学術会議任命拒否問題とつながっている。
 法的安定性を損ない、違憲とする国民からの疑念も絶えない安保法制は、本当に必要なのか。現状では隣国との摩擦の種にしかならない。
 政府は、違憲との指摘がある安保法制を根幹から見直すべきだ。