<社説>歴史教科書検定 沖縄戦の美化を危ぐする

 76年前の今日、米軍が沖縄本島に上陸した。激戦に動員された若者を顕彰し、県民は戦争に「協力した」とたたえるような教科書の記述で沖縄戦の実相をゆがめ、美化する動きを危ぐする。

 文部科学省は2022年度から使う教科書の検定結果を公表した。歴史教科書には沖縄戦の県民犠牲を称揚するような記述があった。
 明成社の「歴史総合」は鉄血勤皇隊として戦場に動員された県立第一中学校の生徒を慰霊する「一中健児之塔」を「顕彰碑」と記述した。また、沖縄師範学校女子部・県立第一高等女学校の生徒で編成した「ひめゆり学徒隊」を「ひめゆり部隊」と記述した。
 旧制中学・師範学校の生徒を戦場へ動員し、犠牲を強いた経過に照らしても「顕彰」「部隊」の記述は不適切だ。
 一中健児之塔は犠牲者を悼み平和を希求するための慰霊碑であり、「顕彰」する碑ではない。管理する養秀同窓会も「顕彰碑と説明したことはない」としている。「部隊」という記述ついて、沖縄大学の新城俊昭客員教授は「法的根拠もないまま補助兵力として戦場に動員された女子学徒の編成を『部隊』と称するのは誤りだ」と指摘した。明成社は「顕彰碑」の記述を「慰霊碑」に改める意向だ。
 自由社の中学歴史教科書にも容認しがたい記述がある。沖縄戦に関して「この戦いで沖縄県民にも多数の犠牲者がでました。日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力しましたが、沖縄戦は6月23日に、日本軍の敗北で終結しました」と記した。
 ここでは「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦最大の教訓が無視されている。兵士に死を強いる陸、海、空の特攻作戦は戦術を無視するものだ。さらに、県民は「よく協力した」と記述することで「軍官民共生共死の一体化」の下で県民を根こそぎ動員した事実をゆがめた。沖縄戦犠牲における国や軍隊の責任を隠ぺいするものだ。
 沖縄戦が6月23日に「終結」したという記述も誤りだ。牛島満司令官らの自決で組織的戦闘は終わったが、牛島司令官は最後まで戦うよう兵士に命じており、散発的な米軍との交戦は続いたのである。
 「集団自決」(強制集団死)の記述をゆがめた教科書検定問題の教訓に立ち返る必要がある。記述回復を求める訴えの中で、県民は沖縄戦の実相を正しく伝えるため、沖縄戦研究者を検定作業に参加させるよう求めた。その訴えが十分に生かされていない。
 沖縄戦の史実を正しく継承するため、息の長い沖縄戦研究と体験者による証言活動が積み重ねられてきた。それは平和創造の礎となるものだ。
 学校教育の場で沖縄戦が正しく伝えられるよう私たちは教科書記述を注視し、誤りがあれば正さなければならない。同時に沖縄戦研究やさまざまな証言を踏まえた情報発信にも努める必要がある。



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