<社説>ミャンマー国軍弾圧 「保護する責任」果たせ


社会
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 燃えているタイヤに住民が投げ込まれ、7歳の女児が父親の膝に座っていたところ腹部を撃たれて死亡した。デモ参加者へ発砲するだけでなく手りゅう弾が使われている。

 ミャンマー国軍によるクーデターから2カ月余。軍の暴力を抑止する手だてを地域機構や大国が取れない中、500人を超える市民が犠牲になっている。軍隊が非武装の市民を「虐殺」する行為は断じて許されない。
 ミャンマー国軍や治安当局から銃口を向けられている市民は、国際社会に「保護する責任」(R2P)を訴えている。国軍に市民の殺戮(さつりく)の即刻中止を求める。そして国際社会は今こそ「保護する責任」を果たすべきだ。
 日本や米国など12カ国の参謀総長ら軍トップは「国軍と治安部隊が非武装の市民に軍事力を行使したことを非難する」との共同声明を発表し国軍に暴力停止を呼び掛けた。国軍はこの声明を重く受け止めなければならない。
 しかし、国連安全保障理事会は1日、平和的なデモ参加者への暴力や多数の市民の犠牲を「強く非難する」との談話を発表し、国軍に対しては「最大限の自制」を要求するにとどまっている。生ぬるい対応と言わざるを得ない。
 国連は2005年、内戦や虐殺のエスカレートで主権国家が自国民を保護できない場合、国際社会が武力を含む人道的介入で「保護する責任がある」と明文化したはずだ。
 安保理で欧米諸国は国軍への制裁の可能性を探るよう提起したが、常任理事国の中国やロシアは内政干渉として後ろ向きで、ベトナムなども反対姿勢を示した。安保理の存在意義が問われる。
 特に隣国である中国、インドの両大国は、自らの権益を優先する立場を露骨に示している。中国は原油と天然ガスのパイプラインの警備強化を国軍に求め、中国の影響力拡大を警戒するインドは安全保障面でミャンマー国軍との連携を深化させている。
 ミャンマーは1962年の軍事クーデターにより独裁体制が続いた。軍政は2003年、民主化案を発表し11年に民政移管した。軍政が民主化を容認したのは、国際社会で孤立し、欧米による経済制裁によって経済が低迷したからだ。ミャンマーの歴史を振り返れば、国際社会が一致して圧力を強めることの意義が分かる。中国やインドが自国の権益を優先する態度は「人道に対する罪」を容認することにつながる。
 特に日本はミャンマーに対する最大の経済援助国であり、影響力を発揮する時だ。しかし、制裁に依然慎重で米国や欧州連合(EU)とは一線を画している。政府開発援助(ODA)を巡り、実施中の事業の継続の是非を検討する段階にとどまっている。
 日本には、国軍に影響力がある中国やインドに働き掛けて最悪な事態を終わらせる外交力が問われている。