<社説>福島原発処理水問題 海洋放出しない選択を


社会
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 東京電力福島第1原発の処理水の処分に関し、海洋放出決定に向けた政府の検討が大詰めを迎えている。

 処理水には除去できなかった放射性物質トリチウムが含まれる。海洋放出によって海の環境や人体に与える影響だけでなく、漁業など地場産業に及ぶ風評被害が懸念される。国連の人権専門家は容認できないと批判している。
 政府は処理水処分を急いではならない。海洋放出しない方法はある。トリチウム分離など放射性物質を取り除く技術が開発されるまで地上で保管することである。
 第1原発では溶けた核燃料(デブリ)を冷やすための注水などで、1日に170トン程度の汚染水が増え続ける。東電は多核種除去設備(ALPS)を使って汚染水から放射性物質を取り除く処理をしているが、トリチウムは除去できないと説明してきた。
 しかし、環境保護団体グリーンピースは、トリチウム分離技術は存在すると指摘している。米企業や米国エネルギー省が、トリチウム水の処理方法に関して提案したが十分検討されずに採用されなかったという。
 浄化後の水にトリチウム以外の放射性物質が除去しきれず残留し、一部は排水の法令基準値を上回っていたことも判明した。東電は放射性物質濃度が法令基準以下になるまで希釈すると説明している。だが、いくら安全を強調されても、東電の危機管理と情報開示は問題がありすぎる。
 例えば、第1原発3号機の原子炉建屋に設置した地震計が故障していたにもかかわらず放置していた。このため今年2月に発生した最大震度6強を観測した地震の揺れのデータが記録できなかった。東電は地震後の会見で故障の事
実を一切説明していなかった。
 トリチウムを含む処理水をタンクに保管してきたが、東電は来年夏にもタンク容量が満杯になると試算している。そこで政府は海洋放出を決定しようとしているが、風評被害を懸念する漁業者は猛反対している。意思決定過程で住民参加が不十分である。
 第1原発敷地内に廃炉作業に活用する予定のない場所があるという。それなら満杯になる時期を延ばすことは可能だろう。その間に他の保管場所を確保し、トリチウム分離技術開発を待てばいい。
 国連の人権専門家は3月11日に声明を発表している。汚染水は環境と人権に大きな危険を及ぼすため「太平洋に放出するという決定は容認できる解決策ではない」と述べた。海洋放出は子どもたちの将来的な健康リスクを高めるなど、人権侵害に当たると警告している。
 菅義偉首相は国会答弁などで「いつまでも決定せず、先送りはすべきではない。適切な時期に処分方針を決定したい」と述べた。国際社会の警告を無視して、海洋放出ありきで決定を急ぐ姿勢は、合理的な選択とはいえない。