<社説>柏崎刈羽「運転禁止」 東電に原発稼働資格なし


社会
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 原子力規制委員会は、ずさんな核物質防護に対し、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の事実上の運転禁止命令を正式に決定した。

 安全対策を軽視し不都合な事実を公表しない東電に、原発を再稼働させる資格はない。規制委は1年以上かけて追加検査をする。原子炉設置許可取り消しも視野に厳格な検査を求めたい。
 燃料に使われるウランやプルトニウムは、テロリストに盗まれると核兵器製造などに悪用される恐れがある。そのため、監視カメラやセンサーなどを設置して、外部からの不正な侵入を防ぐ措置が法律で義務付けられている。
 規制委や東電によると、昨年3月以降、計15カ所で核物質防護設備が故障し代替措置も不十分だったため、テロ目的などの侵入を検知できない状態だった。それも規制委の抜き打ち検査で判明した。
 規制委も、結果的に侵入検知設備の不備を見抜けなかった。検査方法や規制の在り方を見直し、稼働中の全原発の点検を求める。
 今年1月には、同僚のIDカードを使った所員による中央制御室への不正入室も発覚した。2月には、完了したとしていた7号機の安全対策工事の一部が未完了だったことも明らかになった。
 福島第1でも、3号機に設置した地震計2基が故障したのに放置していた。そのため今年2月に宮城、福島両県で震度6強を記録した地震の揺れのデータが取れなかった。
 次々に発覚する不祥事は、もはや東電の企業体質と言える。自民党新潟県連の小野峯生幹事長は「そもそも東電が原発を運転する適格性がないというのが県民の総意だ」と語っている。地元の信頼は失墜している。
 東電は柏崎刈羽原発の再稼働により1基当たり年間900億円の収支改善効果を見込み、福島第1原発の事故処理費用に充てようとした。しかし運転禁止によって前提が崩れた。再稼働を前提としない経営計画を立てるべきだ。
 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故から10年になる。しかし、数十年かかる廃炉は困難を極めている。汚染水を浄化した後に残る処理水を巡り、地元や近隣諸国の反対を押し切って海洋放出を決定した。
 政府の「エネルギー基本計画」は原発を「重要なベースロード電源」と位置付けている。その発想こそ見直さなければならない。
 日仏英の国際チームの報告によると、世界全体の再生エネルギーによる発電量は2019年、初めて原発を上回った。発電コストも原発の1キロワット時当たり15.5セント(約16円)に対し、太陽光や風力は4分の1である。
 原発事故による人身被害と風評被害、その後の廃炉や除染などに要する年月とコストを考えれば、これ以上原発にしがみつくべきではない。脱原発こそ現実的である。