<社説>ヤングケアラー調査 行政の垣根越え支援を


社会
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 大人に代わり、きょうだいや家族の世話をする18歳未満の子ども「ヤングケアラー」について、初の全国実態調査の結果が発表された。中学生の約17人に1人、高校生の約24人に1人の割合で、家庭内でケアの役割を担っていることが分かった。

 家族や介護の内情が外から見えにくいこともあり、これまでヤングケアラーの実態をほとんど把握できていない課題があった。今回の実態調査を皮切りに、行政の垣根を越えた支援の構築へと一歩を踏み出したい。沖縄県における実態調査も急務だ。
 ヤングケアラーは、障がいや病気のある家族に代わって家事や幼いきょうだいの世話を担ったり、介護が必要な家族の介助をしたりするなど、本来であれば大人が担う役割や責任を引き受けている子どもたちのことだ。
 介護制度や行政の福祉サービス、支援機関などの知識が乏しいまま若い世代が家族内のケアを余儀なくされ、誰にも知られず責任を抱え込んでしまう。負担が重くなり学業に支障を来せば、進路、就職の制限など将来にわたって可能性を狭めることになる。
 今回の初の調査により、中高生の約20人に1人がヤングケアラーということが分かった。学級に1人以上は家族を世話する学生がいる計算で、決して少ない数ではない。
 アンケートには「睡眠時間も削られる」「誰かに相談する余裕なんてない」など切実な声が寄せられている。世話をする頻度は半数弱が「ほぼ毎日」と回答し、家族の世話について6割超は誰にも相談したことがないとした。家庭内の悩みを打ち明けることができず、孤立している実態が浮き彫りとなった。
 自身の時間を犠牲にし、家族の介護や家事に追われる子どもの存在に周囲がいち早く気付き、適切な福祉サービスや教育の機会を保障する支援につなぐ体制が必要だ。そのためには、ケアを担う子どもたちが話しやすい環境を整え、SOSを受け止める理解ある大人がいることを周知していくことが重要になる。
 英国では1980年代からヤングケアラーの研究が始まり、法を整備して支援事業を進めてきた。だが、日本では、介護は家庭の責任として「自助」に押し込める風潮が強く、社会的な問題として認識が深まってこなかった。
 だが、少子高齢化や核家族化など世帯の人数が減る傾向にあり、若い世代が両親や祖父母の世話をしなければならない状況はますます進んでいく。ヤングケアラーの存在を、これ以上見過ごしておくことはできない。
 教職員の研修、各学校に配置するソーシャルワーカーの拡充など、教育現場と福祉の連携を強化した支援策が必要になる。何より介護を家族で抱え込む風潮を改め、手厚い公助を確立することが、子どもたちの将来の可能性を守ることにつながる。