<社説>南部土砂中止見送り 根源の埋め立てを止めよ


社会
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 沖縄戦で亡くなった人々の遺骨が眠る沖縄本島南部の土砂を採掘する計画に対し、玉城デニー知事は遺骨収集に支障が生じないことなどを求める措置命令の発出に向け、採掘業者に弁明機会を与える手続きを始めた。

 県議会で土砂使用をやめるよう求める意見書が全会一致で可決した直後だが、中止命令には踏み込まなかった。
 遺骨が眠るであろう土砂を戦争につながる基地建設に使わせないためには法律の壁がある。必要なのは政府の決断だ。すなわち辺野古新基地建設の断念である。
 沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松さんらが望んだ中止命令には至らず、県民からは反発する声もある。今後中止命令を出す可能性はあるものの、今回の手続きは知事の最終判断に近いものだ。
 そもそも南部の土砂採掘が問題になった原因は、普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設にある。
 沖縄防衛局が設計変更に伴い、土砂の調達先を県全域に拡大したからだ。その理由は軟弱地盤が見つかり、必要な土砂の量が当初の6・7倍に上ったことにある。
 15日の県議会で、全会一致で可決した意見書は、県民だけでなく日米の兵士らの遺骨も含むであろう土地を守る決意を示した。平和の礎に象徴される「反戦・非戦」の県民意思が党派を超えて形になった。その意味を政府は重く受け止めるべきだ。
 これまでの政府の対応や閣僚の発言を見ると、県民の思いが伝わっているか、はなはだ疑問だ。岸信夫防衛相は具志堅さんが抗議のハンガーストライキを開始した際、南部地域を土砂採取から外すことには言及せず、業者との契約時に遺骨の取り扱いを明記する考えを示した。
 戦後76年が経過し、風化が進む遺骨が土砂に混じっているかどうかは、目視など通りいっぺんの確認で分かるはずがない。遺骨を家族の元へ戻したいと願う人々の気持ちを全く理解していない。
 政府が責任を持って行うべきは、ほかにもある。本島南部をはじめとする遺骨収集だ。
 遺骨が土砂に混じらないよう採掘業者に責任を負わせるような手法は、2016年に施行した遺骨収集推進法にある「施策を総合的に策定し、確実に実施する」という国の責務に反する。
 また自然公園法の改正も急ぐべきだ。
 自然公園法は生態系や環境の保護を前提としている。沖縄のような戦跡を守るという概念が抜け落ちている。
 対象となった業者に限らず、本島南部には土砂を調達可能とする企業が13社ある。
 同様の問題は今後も起こりうる。戦没者の遺骨を守るためには、戦跡を含めた地域全体の保護を法に明文化する必要があるのだ。
 立法府にも重い責任があることを忘れてはならない。