<社説>本島聖火リレー縮小 五輪の是非を見極めよ


社会
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 東京五輪聖火リレーについて玉城デニー知事は、来月1日から始まる本島内のリレーを名護市と糸満市に集約すると発表した。新型コロナウイルスの感染予防のためだ。無観客で実施し、インターネットでライブ中継するという。

 五輪大会組織委はリレーの中止か、ランナーなしのセレモニーを要望したが、県実行委は「走らせてあげたい」としてランナーの参加を維持した。コロナ対策とリレーの意義の両方を考慮した、ぎりぎりの判断とみられる。
 ただ、東日本大震災の被災地復興をPRし、地域の魅力も発信して大会への機運を盛り上げるという聖火リレーに期待された役割は十分に果たせない状況にある。大阪府でも公道での実施が全て中止され、愛媛県松山市でも公道を使わない予定だ。
 リレーや五輪が感染拡大源になるのは絶対に避けねばならない。それを念頭に、アスリートだけでなく国民の安全を最優先にして五輪開催の是非を慎重に判断すべきだ。
 重要なのはコロナ対策の効果や感染拡大の現状を直視することだ。全国の感染者数は連日4千人超え、収束どころか第4波が本格化している。
 このような中で実施されている聖火リレーには、芸能人が相次いで参加を辞退するなど批判的な見方がある。3月25日に福島県から始まったものの、国内の世論は好転したとは言えない。欧米諸国に比べ、ワクチンの確保や接種が遅れていることも逆風だ。
 共同通信が10~12日に実施した世論調査は、聖火リレーは「感染が深刻な地域に限って中止すべきだ」が49・3%、「全面的に中止すべきだ」が35・9%、「最後まで継続するべきだ」は13・2%にとどまる。歓迎ムードにはほど遠い。
 大会自体への支持も弱い。「開催すべきだ」は24・5%にとどまり、「中止するべきだ」39・2%、「再延期するべきだ」32・8%より下回っている。
 世界を見ると、コロナによる死者は300万人を超え、収束に至っていない。菅義偉首相が、感染者数世界ワーストである米国のバイデン大統領から五輪開催への協力を取り付けても、世界はまだ五輪を歓迎できる状況にない。
 英紙ガーディアンは論説で日本と国際オリンピック委に対し「この大会が本当に正当化できるかどうか自らに問い掛けなければならない」と五輪開催のリスクを指摘した。その上で五輪の大問題は「何十億ドルもの大金がかかることだ」と強調している。利権が開催への原動力になっているのなら言語道断だ。
 五輪開会式を予定する7月23日の段階で大半の国民がワクチンを接種できていない。五輪が感染爆発の発生源になったら、誰がどう責任を取るのか。感染の封じ込めに成功していない現状を直視しなければならない。開催ありきではなく、大会の中止や再延期も選択肢に入れ、最善の結論を導くべきだ。