<社説>学術会議任命拒否 組織問題にすり替えるな


社会
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 日本学術会議の会員候補6人を菅義偉首相が任命拒否してから半年。学術会議は21日から始まった定例総会で「即時に任命するよう要求する」声明案を検討している。

 首相が任命拒否したため、日本学術会議法に定められた定員を満たさず違法状態にある。違法を放置すれば憲法に抵触する。違法状態を解消すため任命拒否を撤回し、直ちに6人を任命すべきだ。
 ところが、学問の自由をないがしろにする任命拒否問題を、政府・自民党は組織形態の問題にすり替え、幕引きしようとしている。学術会議を国の特別機関から切り離して済まされる問題ではない。論点ずらしは許されない。
 学術会議は昨年8月31日に新会員候補105人を推薦。首相は、安全保障関連法などに反対した法学者ら6人の任命を見送り、新会員99人が10月1日に任命された。
 会員任命拒否は憲法23条が保障する「学問の自由」を脅かすとの批判が相次いだ。これに対し政府は、憲法15条を持ち出して拒否を正当化しようとした。
 憲法15条は「公務員の選定」は「国民固有の権利」と定めている。内閣総理大臣は「国民固有の権利」を代行しているので、特別職の国家公務員である学術会議会員を選定できるというのだ。
 東京都立大の木村草太教授(憲法学)は、憲法73条から政府の憲法解釈の問題点を指摘している。
 憲法73条で内閣は「法律の定める基準に従って」公務員に関する事務を行うと定めている。日本学術会議法は会員の定員を210人と規定している。6人を任命拒否した結果、定数に満たない204人となり、違法状態になっている。違法状態を放置することは憲法73条に反する。
 首相が憲法や法を無視することはできない。立憲主義や、法治主義によって日本国は成り立っているからだ。
 さらに学術会議法7条2項で会員は学術会議の「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」と規定している。
 1983年に当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立はあくまで保障される」と国会答弁しており、学術会議が政府から独立した存在であることを認めている。内閣法制局も83年に任命は「形式的行為」と答弁している。首相が拒絶することは想定していない。
 一方、政府が学問の自由をないがしろにした問題が、いつの間にか組織の問題にすり替えられようとしている。
 自民党のプロジェクトチームは政府から独立した法人格の形態に移行するのが望ましいとする提言を大筋了承した。だが、学術会議側は今の組織形態を「変更する積極的理由を見いだすことは困難」とする報告書案をまとめた。
 国家による研究者と学術機関への介入を許さない、というのが本筋であるはずだ。