<社説>元慰安婦訴え却下 被害者救済こそが解決だ


社会
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 日本軍の元従軍慰安婦の女性や遺族らが日本政府に損害賠償を求めた裁判で、韓国のソウル中央地裁は訴えを却下した。国家は外国の裁判権に服さないとする「主権免除」の原則を適用した。裁判を行えば日本との「衝突が予想される」との懸念も示した。

 同地裁は1月、同種の裁判で慰安婦動員は「反人道的犯罪行為」で主権免除は適用できないと判断し、賠償を命じる判決を出した。今回、これとは対照的な結果だ。
 日韓両政府では、一連の判決について、主権免除適用の是非や両国関係の悪化など国益に関する反応ばかりが目立つ。しかし最も重要なのは被害者の救済である。日韓、特に日本政府は被害者が納得していないから裁判に訴えていることを直視し、納得が得られる救済措置を取るよう努力すべきだ。
 問題の発端は日本の植民地支配にある。韓国では1987年の民主化後に植民地支配の清算を求める動きが顕在化した。慰安婦問題も91年に故・金学順さんが慰安婦だったと初めて明かし、社会問題化した。元徴用工訴訟を含む植民地支配に絡む被害者救済は政府より司法が先行し賠償請求を認める判決が相次ぐ。
 一方、日本政府は1993年、慰安婦問題で当時の河野洋平官房長官が「(日本)軍の要請を受けた業者が甘言、強圧により本人達の意思に反して集められた事例が数多くある。官憲などが直接加担したこともあった」として、おわびと反省を明記した談話を発表した。
 しかし第1次安倍内閣は2007年に「河野談話までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする答弁書を閣議決定した。14年の第2次安倍内閣でも河野談話の作成経緯を有識者らに検証させ「日韓で文言調整があった」「元慰安婦証言の裏付け調査を行わなかった」などと報告された。
 だが、日本軍の従軍慰安婦連行に軍の組織的関与を裏付ける文書が次々に発見されている。日本政府はこの事実と真摯(しんし)に向き合い、被害者が求める謝罪に応じるべきだ。
 菅義偉首相は、慰安婦問題は「1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済み」との立場だ。
 ではなぜ2015年にも慰安婦問題の最終決着を図るために日本政府は自らの責任を認め、支援財団に10億円を支払うことで韓国と合意したのか。なおかつその合意後もなぜ訴訟が絶えないのか。それは被害者が納得する謝罪や救済が行われていない証しだ。被害者不在の政府間交渉や合意は真の解決には至らない。
 今回の判決は、15年の日韓合意は有効とし、日韓政府の外交努力で解決すべきだと指摘した。その外交で根本的に問われているのは、当事者の立場に立ち、どう納得を得られる解決を図るかである。