<社説>コロナ資料黒塗り 情報公開の原点に返れ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 行政機関が集めた情報は、国民の財産である。公開を含め行政機関が恣意的(しいてき)に運用を決めてよいものではない。

 県が新型コロナウイルス感染症対策関連の資料を黒塗りにして一部開示しなかった問題は、県行政の在り方として大いに疑問だ。今回の非開示決定だけでなく、これまでの情報公開制度の運用にも疑義を抱かせる結果となった。
 県は情報公開制度の原点に立ち返り、行政への県民参加を保障できるよう透明性確保に努めるべきだ。また同様の事態が起きないよう運用の再点検も必要だ。
 今回、県が非開示とした資料は、県外から入ってきたウイルスが「観光業」「接待を伴う飲食店」に関連して県内に広がったことを示唆する相関図が含まれていた。
 玉城デニー知事は「他の資料と重ね合わせると、個人の情報が類推できる」と非開示の理由を説明している。
 複数の専門家から指摘があるように、知事の説明には幾つかの問題がある。
 個人のプライバシー保護は当然だが、個人情報を含まない相関図も非開示にする必要はなかった。
 非開示となれば、県が情報を独占し、政策決定過程に県民視点を反映する機会が失われる。本来開示すべき資料も、これまで県は非開示にしたのではないか、と疑いの目が向けられる。不透明な運用は、不都合な事実を隠していないか、とさらなる疑念を呼び、県民の信頼を揺るがす。
 森友・加計問題で中央省庁が情報隠しや公文書を改ざんしたことは記憶に新しい。最初はわずかな情報隠しであったとしても、正当化するためにうそや改ざんの上塗りが繰り返される。そうした主権者への重大な裏切りは許されないし、行政機関も自らを律することが当然ではないか。
 政策の検証という視点では、なぜ観光業や飲食業と感染の関わりを明示しないのか、理解できない。
 当事者である観光業界からは「感覚的な議論に終始しないために、数字や根拠を示し、正しい情報を出していくことが重要だ」という声がある。
 観光や飲食業が感染拡大の要因としてあるなら、情報を共有して対策を講じるのが行政として当然の行為だ。
 観光業界や飲食業界は一丸となって感染防止対策に注力している。県が根拠や背景を曖昧にし、一方的に時短や休業を求めるだけでは、協力を得るどころか不信感を生むことにつながりかねない。
 民主主義の健全な発展には、正確な情報に基づく議論が不可欠である。根幹となるべき情報を公表しないのでは、民主主義を阻害する行為と言われてもやむを得まい。
 行政機関が得た情報、それに基づく公文書は、共有の知的財産であることを県は改めて認識しなければならない。そして安易に非開示としないよう内部の意識改革や厳密な運用を徹底すべきだ。