<社説>水俣病確認65年 健康調査の早期実施を


社会
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 水俣病が公式確認されてから65年を迎えた。高度経済成長路線の下で、利益最優先の企業姿勢が環境汚染を引き起こし、住民の命を犠牲にした。国と企業の責任は重い。

 3月末までに熊本、鹿児島両県で計2283人が患者認定を受けた。患者は高齢化が進み、うち1988人は既に死亡した。なお約1400人が認定申請中だ。国やチッソなどを相手取り救済を求める法廷闘争は続き、被害の全面解決は見通せない。
 2009年に成立した未認定者救済の特別措置法(特措法)が、国に求めた住民の健康調査は、いまだに実現していない。被害の全容解明のため、対象地域の健康調査の早期実施を求める。
 熊本県水俣市で、チッソの工場が毒性の強いメチル水銀を含む排水を不知火海(八代海)に流し、汚染された魚介類を食べた住民らに、手足のしびれや視野狭窄などの症状が出た。根本的な治療法は見つかっていない。水俣病は当初、伝染病とみなされ、患者の多くが過酷な差別を受けた。
 水俣病が「公害の原点」と言われる理由は二つある。水俣病研究の第一人者で2012年に死去した医師の原田正純さんによると、環境汚染によって食物連鎖を通じて起こった有機水銀中毒という意味で人類初の経験である。
 母親の胎内で影響を受けた中毒としても人類初である。生物の進化の中で母親の胎盤は胎児を毒物から守ってきたが、もはや母親の胎盤が胎児を守れないことを示した。
 国が1977年に設けた水俣病認定基準について、2004年に最高裁は基準より広く患者認定すべきだと判断し、国と熊本県の責任を指摘した。14年3月から感覚障害だけでも患者認定する新指針を国が通知した。未認定だった5万3千人余を被害者と認めたが、それでも対象外の人々が救済を求めている。
 さらに国の新指針も今や見直す必要がありそうだ。最近の調査で、幼いころにメチル水銀の影響を受けた場合、症状が従来考えられてきたより広範にわたる可能性が明らかになってきた。新しい知見だ。被害の全容を解明するには健康調査を実施し、被害者を特定することが欠かせない。
 09年の特措法は、不知火海沿岸(熊本、鹿児島)に居住歴がある人の健康状況を国が調べると規定している。当時20万人以上が住んでいたとされる。現在患者と認定されないが、程度の差はあれ水俣病の影響を受けている人が相当数いる可能性がある。
 被害者側は速やかな調査を求めているが実現していない。水俣病の歴史は、魚介類が汚染されているのに直ちに漁獲禁止せず、水銀廃液を10年以上も垂れ流しさせるなど行政の「怠慢の歴史」とも指摘される。調査遅れが全面解決を阻んでいる。救済はまだ終わっていない。これ以上、問題を放置することは許されない。