<社説>前宮古島市長逮捕 防衛利権の全容解明せよ


社会
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 県警は12日、前宮古島市長の下地敏彦容疑者を収賄の疑いで逮捕した。宮古島市への陸上自衛隊配備計画を巡り、千代田カントリークラブ(CC)所有の土地を駐屯地用地として国に買い取らせ、その見返りに業者から650万円の金銭を受け取ったという汚職事件だ。

 自衛隊の先島配備は宮古島の将来や住民の安全に関わり、今も島を二分する問題だ。市長の立場を利用して自衛隊の受け入れに動き、私腹を肥やしていたとすれば、公職にあった者として絶対に許されない。「基地に島を売った」という批判は免れない。
 防衛関係で県内の首長経験者が逮捕されるのは初めてだ。市長の権限ではない陸自駐屯地の用地選定で、どのように事業者の意に沿う決定となったのか。防衛関係者らの関与がなかったのか。明らかにすべき点は多い。
 便宜供与の全容を徹底して解明するとともに、防衛省は選定に関わる情報の開示と調査が求められる。
 宮古島への陸自配備を巡っては、防衛省が2015年に島内の大福牧場と千代田CCに配備候補地を絞った。当時市長だった下地容疑者は、16年6月に自衛隊配備の受け入れを正式に表明。防衛省は同9月に大福牧場を断念し、駐屯地の建設地は千代田CCに絞られていった。
 下地容疑者は、飲料水の地下水源を汚染することを理由に大福牧場に反対の意思を示すなど、千代田CCへの配備決定に向かっていく中で重要な役割を果たしてきた。
 琉球新報が入手した内部文書で、下地容疑者は受け入れ表明前の15年から、沖縄地方協力本部や沖縄防衛局に千代田CCの土地取得を打診していた。負債を抱えていた千代田CCに便宜を図るため、土地売却のため防衛への働き掛けに動いたと見られる。
 県内の保守系首長グループ「チーム沖縄」の顔役でもあった下地容疑者の政治力の源泉が、「政府との強いパイプ」だった。落選した1月の市長選でも、菅義偉首相の秘書が宮古島入りし、自民党は小野寺五典元防衛相を応援に入れるなど、一地方の選挙に強力にてこ入れしている。
 地元住民の合意取り付けが難しい政策を進めるため、政府に融和的な政治家を行政の長に押し上げ、反対の声を押し切る。宮古島への陸自配備という国策を容認する市政を維持する思惑から、時の政権による遮二無二な介入があったことは想像に難くない。
 下地容疑者逮捕の背景に、中央とのゆがんだ癒着の構図がなかったか。徹底的に真相究明しなければならない。
 先島への陸自配備は、離島が戦場に巻き込まれる恐れやミサイル攻撃の標的となる可能性を高める。配備に反対する声は強い。政治家と業者が利権で結び付くことは許されない。防衛利権を巡るうみを出しながら、自衛隊誘致の是非も議論をし直すべきだ。