<社説>国民投票法改正案 改憲の流れに歯止めを


社会
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 憲法改正手続きに関する国民投票法改正案が、自民、立憲民主、公明などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。自民、立民両党は、参院で19日に審議入りし、来月16日までの今国会成立で合意した。これにより実質的な改憲論議も加速する恐れが強まった。

 与党と日本維新が2018年に提出して以来、8国会にわたって継続審議となっていた改正案が一気に成立へ向かった背景には、今秋までに実施される衆院選がある。自民、立民両党間に溝はあるものの、改憲勢力・支持層を取り込む思惑が働いている。
 立民は改正案に、3年以内の法整備を義務付ける規定を盛り込んだとして、改憲論議で自民に主導権を握らせない考えだ。しかし自民は今国会成立を優先し、自衛隊明記や緊急事態条項など改憲項目の論議に前のめりだ。この危険な流れができつつある状況に歯止めをかける必要がある。
 改正案を巡っては、立民は政党のスポットCMやインターネット広告を規制しなければ、資金量によって選挙運動が左右され、公平性が担保できないと主張。施行後3年をめどに必要な措置を講じるとした修正を提案した。自民がこれを丸のみし、改正案は成立する見通しとなった。
 ただ両党の認識には隔たりがある。立民は「法制上の措置が必要なものは、3年以内に法改正するよう縛る」と主張するが、自民は「措置を講じるか否かも含めて検討する」という立場だ。自民は改憲項目の具体的な議論を同時並行で進めることも求めている。
 改正案に対しては公平性の担保の他にも多くの問題が指摘されてきた。憲法違反の改正がなされた場合の対抗手段や最低投票率の規定がないことなどだ。これら多くの問題について審議を尽くさないまま、成立ありきで議論を進めるのは非常に危うい。ましてや最高法規である憲法の内容変更を決める重要な意思表示に関することである。これでは国民の理解は得られない。
 そもそも改憲は必要か。自民が狙う自衛隊の明記や緊急事態条項などは憲法の基本原則に反する。自民案のように9条を変えれば日本国憲法の基本原則である平和主義は骨抜きになる。緊急事態条項にしても内閣に強大な権限を与え私権制限の強化をはらむ。
 改憲の動きが進めば、米軍や自衛隊の基地が集中する沖縄では、基地負担や、有事の際の危険性が増す恐れが強まる。沖縄にとっては絶対に容認できない。
 立民が改正案成立に自民と合意した背景には、衆院選で共闘を目指す国民民主党と足並みをそろえる思惑がある。そのような党利党略で憲法改定を論じるべきではない。これでは立民が党名に掲げる立憲民主主義が泣く。
 コロナ禍の中、国民が求めているのは改憲手続きではない。むしろ権力を縛る現憲法の機能だ。改憲に向けた自民の暴走を許してはならない。