<社説>ガザ情勢緊迫 「報復の連鎖」を止めよ


社会
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 戦禍によって失われる命は、必ずしも戦闘員だけではない。被害に遭うのは、何の罪もない市民も同じである。

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの武力衝突で、150人以上が亡くなり、千人以上が負傷した。
 犠牲者は子どもをはじめ、一般市民も含まれる。「やられたらやり返す」という報復の連鎖に市民を巻き込む事態を今すぐ止めねばならない。とりわけ米国は先頭に立ってその役割を果たすべきだ。
 今回の衝突のきっかけは、4月以降、イスラエル警察とパレスチナ人の衝突が度々起こり、負傷者続発への報復としてハマスがロケット弾を打ち込んだことにある。
 これに対抗してイスラエルのネタニヤフ首相は「高い代償を支払うことになる」と空爆を始め、双方の報復が終わることなく続く。
 パレスチナは、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が共存する土地だった。しかし第1次世界大戦を有利に進めたいイギリスがユダヤ人にパレスチナでの国家建設を、アラブ人には当時周辺を支配したオスマントルコからの独立支持を約束し支援を取り付けた。結果としてユダヤ人とアラブ人双方が自らの土地であることを主張し、イスラエル建国、第1次から第3次の中東戦争へとつながった。
 大国の都合に翻弄(ほんろう)されたのがパレスチナの歴史である。この100年、双方とも主張を譲らず大小の衝突が繰り返された。どちらが先に手を出したかというような話ではない。中山泰秀防衛副大臣がツイッターでイスラエル支持と取られる発言をしたが、もってのほかだ。日本政府は中立の立場で双方の攻撃を止める役割があるはずだ。
 人道支援に当たる認定NPO法人「パレスチナ子どものキャンペーン」によると、イスラエルの攻撃が激化した2000~05年で命を失ったのはパレスチナ3339人(このうち子どもは660人)、イスラエルは1020人(同117人)に上る。
 大国に振り回され、戦闘の巻き添えになる市民。同様の歴史を持つ沖縄にとって、ガザでの事態は遠い異国の話ではない。自らのこととして声を上げる必要があるのだ。
 16日(現地時間)には国連安全保障理事会が公開の緊急会合を開く。これまで非公開の協議ではイスラエルを擁護する米国が「緊張緩和に寄与しない」と主張し共同声明が見送られた。
 現在の情勢悪化の背景にはトランプ前米政権が極端にイスラエル寄りの政策を打ち出したこともある。国際協調を掲げるバイデン政権は、安保理会合で和平への具体的道筋を各国に示す責務がある。
 イスラエルが地上部隊を投入した今、戦闘激化は免れないとされる。戦禍がこれ以上広がらないよう、そして市民の犠牲を生まないよう国際社会の責任が問われる。