<社説>入管法改正案大詰め 廃案にして再提出せよ


社会
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 外国人の収容・送還ルールを見直す入管難民法改正案を巡る与野党協議は決裂した。与党は今週中にも衆院を通過させる構えだ。

 法案の実質審議がほとんどされていない中で、国際的な人権基準を満たさない改正案の強行採決は許されない。改正案を廃案にして再提出すべきだ。
 改正案について政府は、第1に不法在留などの理由で退去処分となった外国人の長期収容の解消、第2に難民申請を繰り返す乱用を防ぎ、送還を拒む者を減らすと主張している。しかし、政府主張は問題点が多い。
 第1の収容の長期化に対処するため、収容者が一時的に社会で生活できる「監理措置」を新設した。だが、措置要件に該当するかどうかは入管の裁量に委ねられている。恣意的な判断で無期限の収容が続く恐れがあり、収容長期化の根本的な解決にならない。国連人権理事会が指摘するように、刑事手続きの逮捕と同様、裁判所による審査を導入する必要がある。
 日本が批准している国連人権規約は、全ての人の身体の自由を保障している。「原則自由、収容は例外」である。しかし、改正法は「原則収容」は変えていないので、国連人権規約に抵触する恐れがある。改正案に収容要件の限定を明記すべきだ。
 第2に難民申請を繰り返す乱用を防ぐため、改正案は難民申請による送還停止を原則2回に制限している。
 しかし、強制送還を拒み長期収容されている人の多くは帰国できない事情がある。帰国すると身の危険が及ぶため難民申請しているか、長年日本で暮らして生活基盤ができているかだ。罰則を設けるなど、力ずくで強制送還しようとしても、問題は解決しない。
 政府の外国人受け入れ政策にも問題が多い。例えば外国人技能実習制度の目的は発展途上国への技術移転だが実態は異なる。受け入れ業者に違法な長時間労働、低賃金を強いられ、逃げ出すケースが後を絶たない。不法在留者が生まれる背景に、政策そのものの不備がある。
 改正案の国会審議入り前に名古屋の入管施設に収容中だったスリランカ人女性が体調不良を訴え亡くなった。政府は中間報告を発表したが、死亡2日前に診察した医師が、女性の仮放免を勧めていたことが記載されていないことなどが発覚した。野党側は「隠蔽(いんぺい)だ」と批判を強めている。
 真相究明を求める野党と応じない与党との間で平行線をたどる。与党は5月7日と12日に採決を提案したが見送った。最終的に与党は野党の修正に応じず原案のまま委員会採決する方針だ。しかし、この間、改正案の審議は十分とは言えない。
 制度設計に問題のある改正案を廃案にして、外国人受け入れ政策と難民行政を見直さない限り、根本的な解決につながらない。