<社説>土地規制法審議入り 立法事実なく廃案にせよ


社会
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 自衛隊基地や原発など安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する法案が、衆院内閣委員会で実質審議入りした。安全保障を理由に私権を著しく制限し、国民への監視を強める内容である。

 立憲民主党は修正案に「市民団体の自由な活動の確保」や罰則の撤廃などを盛り込んだが、懸念を払拭(ふっしょく)するには不十分だ。これまでに重要施設への機能阻害行為が国内で確認された事例がないと政府が認めている。立法の必要性を裏付ける根拠のない法案の撤回を求める。
 法案は自衛隊基地、原発など重要施設の周囲約1キロや国境離島を注視区域に指定し、土地の利用状況を調査できる。防衛施設周辺での電波妨害など基地機能を「阻害する行為」を規制対象にしている。
 法案は、外国資本によって防衛施設周辺の土地が買収されることへの安全保障上の警戒感から、規制を目指すと説明されてきた。だが、法律が対象とするのは外国人だけでない。政府が指定する注視区域内に既に暮らす自国民も調査の対象となる。自国民にも調査が及ぶというのは、世界的にも異例だ。
 規制区域や「阻害する行為」に関する具体的な記載がない。法案成立後に政府が決めるため、国会のチェックが働かない。いったん成立すると規制区域の対象が次々と拡大される恐れがある。「阻害する行為」があいまいなため、政府の解釈次第で市民運動などの萎縮や弾圧につながりかねない。
 衆院内閣委員会で、自民の杉田水脈氏は名護市の辺野古新基地建設工事に対する反対運動を名指しした上、「一見して直ちに重要施設の機能を阻害しているように見えなくても、そこから派生する影響も十分に考慮し(防衛施設を守る法案の)本来の目的を果たしてほしい」と法案の適用拡大を求めた。「本来の目的」とは基地に反対する住民を排除することなのか。
 法案は、米軍・自衛隊基地等周辺の土地所有者に対する「情報提供」を求めている。不動産登記簿だけでなく、住民基本台帳などを基に所有者の氏名や住所、国籍、利用実態を調査する権限を国に与える。自衛隊や警察による住民の思想信条を含む情報収集を法的に可能にするもので、住民監視活動を合法的に拡大させるものだ。
 政府は防衛関連施設の規制対象が計500カ所超と想定する。米軍施設周辺は米軍側との協議し、検討する。
 沖縄には広大な米軍基地があり、近年は自衛隊機能も増強されつつある。県民の誰もが調査や規制の対象となる恐れがある。
 多くの懸念が指摘される中で、法制化を急ぎ数の力で成立させることは認められない。それより、新基地建設の中止と基地の整理縮小、米軍機騒音や環境汚染、事件事故など、基地に起因する問題の解決こそ急ぐべきだ。