<社説>沖縄への核報復容認 外交による緊張緩和を


社会
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 沖縄に核攻撃が行われていたかもしれない、恐るべき事実が明らかになった。

 1958年の台湾海峡危機で米政府が中国への核攻撃を検討した際、米軍幹部が沖縄への核による報復攻撃を容認する意向を示していたのだ。沖縄返還交渉にも携わった元米国防次官補代理のモートン・ハルペリン氏が、台湾海峡危機について執筆した機密文書から明らかになった。
 過去の話としてやり過ごすわけにはいかない。最近の米中の対立激化で台湾海峡の緊張が高まっており、沖縄が攻撃の標的となる危機が再び現実味を増しているからだ。
 むしろ沖縄が戦争に巻き込まれる危険性は当時より高まっている。外交によって地域の緊張緩和の方策を探り、南西諸島で進む軍備強化の動きを押しとどめねばならない。
 沖縄が米施政下にあった冷戦期、米軍にとって沖縄は東アジアの核拠点だった。59年6月には、核弾頭を搭載したナイキ・ハーキュリーズミサイルが誤射され、那覇市沖の海中に突っ込んでいる。核巡航ミサイル「メースB」も配備されていた。62年のキューバ危機の際、沖縄のミサイル部隊に核攻撃命令が誤って出され、土壇場で発射が回避されたこともある。
 核配備に対する沖縄県民の危機感が「核抜き返還」の合言葉となり、沖縄の施政権返還を実現する原動力となった。だが、日米両政府は沖縄返還交渉に当たり、沖縄に再び核兵器を持ち込めるとする核密約を交わしていた。核の脅威は去っていない。
 現在の米中対立の中で、米側は、沖縄からフィリピンを結ぶ「第一列島線」に地上発射型の中距離ミサイル網を構築する構想を進める。核弾頭を搭載すれば核ミサイルとなる。当然、中国は対抗手段として沖縄の米軍基地を攻撃対象に定めてくるはずだ。
 中国の軍事力向上により、米軍が圧倒的な軍事力で中国を抑止できた1958年よりも台湾海峡危機のコントロールは難しくなっている。
 今月、陸上自衛隊と仏陸軍、米海兵隊が宮崎、鹿児島両県で「離島防衛訓練」を実施した。英国はインド太平洋へ空母打撃群を派遣する。欧州を関与させて対中けん制を狙うが、中国も対抗して軍拡競争を繰り返せば、安全保障のジレンマに陥る。かえって沖縄が戦争に巻き込まれる危険性を高めてしまう。
 台湾周辺で軍事行動を活発化させ、台湾侵攻が取り沙汰される中国にも大きな責任がある。中国の挑発的な行動や軍事拡張を改めさせる必要がある。だが、その解決に向けた手法は、相互に核を突きつけ合う軍拡のエスカレーションであってならない。
 太平洋戦争で本土防衛の「捨て石」となった沖縄が、再び国家に利用されることは断固として拒否する。粘り強く対話を重ねる外交によってしか、沖縄が戦争を免れ生き延びる道はない。