<社説>次期沖縄振興計画案 自立の達成へ気概示せ


社会
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 玉城デニー知事は1日、2022年度からの新たな沖縄振興計画の素案を公表した。「本県の潜在的な発展可能性を存分に引き出すことは、我が国全体の発展につながり、国家戦略としても重要な意義を有する」として、日本経済発展への貢献が沖縄振興の根拠として強調されている。

 はやりの経済施策の数々が並ぶ一方で、独自のビジョンや構想力が薄れた印象は否めない。肝心の沖縄県自身が何がしたいのかという軸が見えないのであれば、沖縄振興を継続させる必要があるのか問われても仕方ない。
 これまで沖縄振興計画は復帰後10年ごとに、5次にわたって展開されてきた。
 3次計画まで沖縄振興開発計画の名称だったが、02年度の第4次から「開発」の文字を削り、民間主導経済を目指した特区制度などを盛り込んだ。現在の第5次は、計画の策定主体を国から県に移し、自由度の高い一括交付金制度の創設を打ち出した。
 地方自治に基づいて、沖縄らしい施策を模索する主体性が貫かれてきた。
 新たな計画素案は、沖縄の有する広大な海洋領域を資源として、政府が目指す海洋立国への貢献をうたう。脱炭素化社会やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、国が打ち出している方向性を沖縄が先行的に実施し、県民所得の底上げなどにつなげる展望を描く。
 一方で、新型コロナウイルス感染症は、第3次産業に偏った産業構造や非正規雇用率の高さ、医療・健康問題など、沖縄の経済社会の脆弱(ぜいじゃく)な部分を直撃した。沖縄の経済拡大を牽引(けんいん)してきた観光産業も、先行きが見通せないほど急激に落ち込んでいる。コロナ禍が浮き彫りにする深刻な課題について、素案から克服の方向性は見えづらい。
 玉城知事は知事選で辺野古新基地建設反対を公約し、国の安全保障政策であっても、県益の立場から対等に物を言うことを有権者に支持された県政と言っていい。本来なら政権とのパイプを重視する県政以上に、より自立的な経済構想を緻密に練り上げ国と交渉する戦略が、沖縄振興においても問われるはずだ。
 だが、沖縄振興の根拠となる沖縄振興特別措置法の延長について、国頼みの陳情姿勢が目につく。振興を継続するために国におもねり、県政のアイデンティティーを見失ってはいないだろうか。
 素案には、玉城知事が掲げた全国の米軍専用施設面積に占める沖縄県の割合を50%以下に縮小する目標への言及はなく、骨子案に盛り込んでいた「SACWO(サコワ)」の文言も削除された。国との摩擦を避けようとする忖度(そんたく)がないか危ぶんでしまう。
 行政の長期計画は得てして総花的になるものだ。そこに魂を吹き込むのは、時のリーダーの先見性と県民参画の広がりだ。玉城知事には自立の気概を示してもらいたい。