<社説>総務省接待調査報告 首相への忖度が不明だ


社会
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 総務省の第三者委員会は、東北新社の外資規制違反問題について、放送事業認定を取り消さなかった対応は「行政をゆがめたとの指摘は免れない」と結論付けた。

 「行政をゆがめた」元凶は官僚の忖度(そんたく)ではないのか。東北新社の接待には菅義偉首相の長男正剛氏も関わっていた。第三者委は菅首相への忖度の有無に踏み込まず、調査の限界を露呈した。次回報告までに徹底調査を望みたい。
 外資規制違反を巡り、国会などで表面化した後の今年5月になって総務省が衛星放送事業の認定を取り消したが、東北新社側は2017年8月時点で総務省に報告していたと説明。総務省は報告を受けていないと反論していた。
 第三者委は、同社幹部と当事者とされる衛星・地域放送課の井幡晃三課長(当時)が17年8月に面談をしたと推定。違反を認識していた可能性が高いと判断した。
 委員補足意見で示されたように、総務省のヒアリング対象の多くから「覚えていない」との発言が繰り返された。まったく不誠実な対応である。
 その「覚えていない」を繰り返した井幡氏は減給10分の1を3カ月の処分。現在、放送政策課長の要職に就いている。果たして減給処分にとどめていいのか。
 記者会見した武田良太総務相は「行政に対する国民の信頼を大きく損ねることになり、深くおわびしたい」と陳謝した。だが身内に対する処分内容を見れば、監督責任を果たしたとは言い難い。
 接待に関わった菅首相の長男正剛氏について、第三者委の座長を務める元検事の吉野弦太弁護士は「特定の人物に狙いを定めてやってはいない」と語った。はじめから正剛氏を外していたのか。
 接待問題発覚後、菅首相は「長男とは別人格」と国会で答弁して批判を浴びた。菅氏は総務副大臣と総務相を歴任し省内に強い影響力がある。総務相時代に自身の政策に異議を唱えた課長を更迭したこともある。正剛氏は総務相当時の秘書官だ。「別人格」では済まされない。
 正剛氏の背後に菅氏の影響力を感じた結果、官僚側が接待に応じ官と業の癒着が広がったとの見方が広がっている。安倍政権から政治への官僚の忖度が続く。忖度の構図を徹底的に究明しなければ、国民の政治不信は払しょくされないだろう。
 東北新社やNTTなどによる一連の幹部接待を調査してきた総務省は、第三者委の調査報告に合わせて78件の違法接待を確認したと発表した。職員32人に減給などの処分を行った。接待による会食の積み重ねは、官僚と業者の間でなれ合いや「ムラ意識」が醸成されていく温床になる。
 第三者委の委員補足意見は「閉鎖的かつ硬直的な国の人事運用が事業者との癒着を生みやすい環境となる可能性」を指摘している。今後の再発防止に生かしてほしい。