<社説>菅首相初の党首討論 会期延長しコロナ論議を


社会
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 菅義偉首相は就任後初の党首討論に臨んだ。2年ぶりの討論で首相は、東京五輪・パラリンピック開催に意欲を見せた。だが、国民の命を危険にさらしてまで開催する意義は何かと問われると、正面から答えずはぐらかした。

 討論とは程遠い。国民の命や安全をどう守るのか、説得力のある根拠を示さず、むしろ国民の不信感を助長した。国会の会期を延長し徹底論議すべきだ。
 党首討論で首相は、東京五輪開催の可否ついて「国民の命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら開かないのは当然だ」と述べた。
 しかし、この発言は7日の参院決算委員会での答弁の繰り返しでしかない。肝心の開催の前提となる具体的な数値など、判断基準について一切触れていない。国民の不安は払拭されないだろう。
 共産党の志位和夫委員長は、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「今の状況で(大会開催を)やるのは普通はない」と語った点を踏まえて質問。「国民の命をリスクにさらしてまで五輪を開催しなければならない理由は何か」とただした。しかし、首相は質問に答えなかった。不誠実な姿勢に、国民の不安はますます募ったのではないか。
 一方、首相が雄弁になったのは新型コロナウイルスのワクチン接種状況だった。「ワクチン接種こそが切り札」と述べ「今月末には4千万回は超えることができる」と強調。「今年の10月から11月にかけて、必要な国民については全てを終えることを実現したい」と表明した。
 ワクチン接種に前のめりな首相の姿勢に危うさを感じる。8日の参院厚生労働委員会で尾身会長は「7、8月の段階で接種率が上がっても、感染を抑える集団免疫(が実現する)との考え方はとても早すぎる」との専門的な知見を述べている。
 9日に開かれた、厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織でも、ある試算が報告された。
 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を今月20日で解除した場合、ワクチン接種が進んでいても東京では流行が再拡大し、8月に再び緊急事態宣言が避けられない恐れがあるという。感染力が強いインド株は7月中旬に英国株から置き換わり、国内で主流化するとの試算も示された。五輪を開催し人流が増えれば、リバウンドの可能性は十分考えられる。
 党首討論は、首相と野党党首が一対一で対面する論戦だが、1回45分という討論時間を野党が分け合うので、各党首の持ち時間が限られる。
 立憲民主党の枝野幸男代表の持ち時間は30分。五輪の開催理由について、首相は5分以上を1964年の東京五輪の思い出話に費やした。時間稼ぎと言われても仕方ない。今後、党首討論の在り方を見直すべきだ。