<社説>緊急事態宣言解除 国民の命より五輪優先か


社会
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 政府は17日、新型コロナウイルス緊急事態宣言について、沖縄県を除く9都道府県で20日の期限をもって解除することを決めた。しかし、専門家は宣言解除後の感染再拡大を指摘し、東京五輪期間中にも再宣言が必要になる恐れを報告している。

 それにもかかわらず政府は、1万人を上限に東京五輪・パラリンピックに観客を入れる方向へ突き進もうとしている。先進7カ国首脳会議(G7サミット)で支持を取り付けたことに乗じ、五輪前の宣言解除や五輪の有観客に前のめりになる政府の姿勢は、国民の命を軽視した賭けでしかなく、無責任極まりない。
 国立感染症研究所は、宣言解除や五輪開催による人出の増加で、東京の感染者数がどれだけ増えるかを試算した。
 五輪を有観客で開催すると、最も警戒が必要な「デルタ株」の影響を少なく見積もった楽観的なシナリオでさえ、7月下旬に感染者数は千人を突破し、重症者もそれに伴って爆発的に増加する。影響が大きい場合は、7月前半~中旬にも宣言の再発令が必要となる可能性がある。
 ワクチン接種による集団免疫の獲得が当面先という現状で対策を緩和すれば、すぐに感染拡大をぶり返すということだ。その中で五輪を迎えれば、感染再拡大や変異株流行のリスクはさらに高まり、国民の命と生活は危険にさらされる。
 英国では感染力が強い変異株の感染拡大を受け、21日に予定していたロックダウン(都市封鎖)の解除を4週間延期する。ワクチン接種を推進しつつ、徹底したウイルス封じ込めの対策を取ることが世界的な取り組みだ。
 最悪の事態を想定して行動するのが危機管理の原則である。しかし、菅義偉首相は17日夜の会見で、新型コロナ感染症対策分科会で大規模イベントの観客上限を1万人とする緩和策が承認されたことを根拠に、国内観客を入れて五輪を開催する意向を表明した。
 だが、分科会の尾身茂会長は、1万人の観客上限は五輪と関係がないと釘を刺していた。尾身氏らが18日に公表する提言は、無観客開催が最も感染リスクが小さく、強い対策を取らなければ医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を招くことなどを指摘するという。
 これまでも感染拡大を予測する医療のシミュレーションが示されながら、政府は宣言発動を躊躇(ちゅうちょ)したり対策緩和を急いだりして、感染拡大の波を繰り返してきた。感染力が強い変異株への置き換わりを防がなければならない中で、専門家の意見を押し切る対応はもはや許されない。
 沖縄県では、直近1週間の人口10万人当たりの新規感染者数が全国ワーストを続けている。それでも17日の感染者数は97人まで減少してきており、宣言の効果は着実に出ている。今しばらくの辛抱で人流を抑え、感染を徹底して封じ込めることが重要だ。