<社説>河井元法相に有罪 買収原資の解明が必要だ


社会
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 2019年の参院選広島選挙区を巡る公選法違反事件で東京地裁は議員ら100人への買収を認定し、河井克行元法相に懲役3年、追徴金130万円の判決を言い渡した。

 事件は一つの区切りを迎えたが、決着してはいない。買収に使われた資金の出どころが不明だからだ。自民党本部が河井氏側に提供した1億5千万円には税金が元手である政党交付金も含まれる。これが買収の原資となったのか。河井氏、自民党とも説明責任を果たしていない。
 最大の焦点である買収原資が曖昧なままなら事件は終わらない。河井氏側は即日控訴した。二審では買収の原資をどこから得たのか徹底的に解明してもらいたい。
 事件は河井氏の妻・案里氏=公選法違反で有罪確定=の参院選出馬に始まる。
 改選2議席の広島選挙区には案里氏と別に自民党から溝手顕正元国家公安委員長が出馬した。当時溝手氏に自民党本部から提供されたのは1500万円だった。
 同じ党の候補でありながら本部の支援額に10倍もの差がついたのはなぜか。発覚当初から疑問視されたが、裁判を経ても理由は分からない。
 判決で「民主主義の根幹である選挙の公正を著しく害する極めて悪質な犯行」と指弾された事件の背景に、自民党本部が深く関与しているのは客観的に疑いようがない。
 しかしこれまで自民党の幹部は反省どころか、自らのこととして捉えていなかったのではないか。二階俊博自民党幹事長が事件を評して「他山の石」と言い放ったことに象徴されている。
 二階氏はその後「党全体を統括しているのは総裁と幹事長だ。組織上の責任はわれわれにある」と語った。ところが、二階氏側近の林幹雄幹事長代理は、当時の選対委員長だった甘利明税制調査会長を名指しして責任を押し付けようとした。さらに甘利氏は「1ミクロンも関わっていない」と否定する始末だ。
 幹部らの発言を見ても事件を解明する気があるのか甚だ疑わしい。しかも林氏は記者会見で疑惑を追及する記者に向かい「根掘り葉掘り党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と発言した。
 党本部が河井氏側に提供した1億5千万円のうち1億2千万円は政党交付金である。納税者に説明する義務があることは言うまでもない。使途について追及されたくないのであれば、今すぐ政党交付金を全額返上すべきだ。
 何よりも「組織上の責任」があり、決裁権者であった安倍晋三前首相が沈黙しているのも国民には理解しがたい。
 安倍氏は首相在任中、不祥事がある度に「責任は私にある」と言い続けた。今こそ有言実行のときだ。国会でも法廷でもよい。安倍氏に表舞台で証言してもらいたい。
 自民党に自浄能力があるのか。国民が注視していることを肝に銘ずるべきだ。