<社説>ワクチン 国家格差 国際協調し途上国支援を


社会
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 英国で開催された先進7カ国(G7)首脳会議は、2022年中にパンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスの終息と、来年にかけて途上国を中心にワクチン10億回分の供給などを掲げた首脳声明を採択した。

 ワクチン支援の表明は評価するが、実現しなければ意味がない。G7の声明は「ワクチン外交」で存在感を増す中国への対抗でもある。人命に直結するワクチンを政治利用することは許されない。人道支援として途上国にも行き渡るよう連携を深めてほしい。
 ワクチン接種の実施は先進諸国に偏っており、発展途上国で進んでいない。世界の状況は二極化している。
 アフリカ疾病対策センターによると、アフリカ地域で確認された新型コロナウイルス感染者は15日までに500万人を超えた。死者数は13万5千人ほどで世界全体の3・5%だが、死亡率は2・6%と世界全体の2・1%を上回っている。ワクチンの普及は遅れ、少なくとも接種1回目は人口の2・2%にすぎない。
 米国では少なくとも1回目の接種を受けた人が40%を突破した。ドイツでは1回目が50%、必要な回数を終えた人は29%を超えた。
 日本は20日時点で、すべての年代で1回目が全人口の13・3%、2回目が3・8%。65歳以上は1回目が45・2%、2回目が12・9%となり、政府は7月までに65歳以上の接種を終える計画だ。
 世界保健機関(WHO)は十分なワクチンを確保している国に対し、アフリカ諸国などへの融通を呼び掛けている。
 ベトナムも8日時点で少なくとも1回目は1%台だ。対中国への感情が激しいとされるベトナムでは、ほかの東南アジア諸国に比べ、中国製ワクチンは流通していない。
 米国は台湾に大量のワクチンを送って支援した。台湾は中国の妨害によりワクチン調達が遅れていると主張していた。これに対し中国は米国の動きに反発している。
 米国と同盟関係にある日本政府も台湾に124万回分を無償提供した。ベトナムには約100万回分である。支援を通じて東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化を図ろうとしている。
 外交で優位に立とうとする先進諸国の思惑が絡み合う中、ワクチン普及が遅れている各国は国際会合で、ワクチンの特許一時放棄を提案している。G7や世界貿易機関(WTO)で協議されたが、結論は出ていない。
 製薬会社の開発意欲が失われることを懸念し、日本や欧州の一部は合意していない。一方、米中が特許一時放棄を支持したことは、ワクチン不足に直面する国々の危機回避につながり、歓迎したい。
 人命優先は当然だ。9月に始まる国連総会では、ワクチンの公平分配も重点議題になる見通しである。未曾有のパンデミックを乗り越えるためには国際協調が不可欠だ。