<社説>「慰霊の日」平和宣言 基地削減 決意伝わらない


社会
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 20万人余が犠牲になった沖縄戦から76年目となった23日の「慰霊の日」に、県民は糸満市摩文仁での沖縄全戦没者追悼式など慰霊祭で「不戦への誓い」を新たにした。

 とりわけ「慰霊の日」に発せられる政治家の言葉は例年注目されてきた。玉城デニー知事は平和宣言で、しまくとぅばや英語を交え、沖縄のチムグクルを発信したが、名護市辺野古の新基地建設断念を政府に全く求めなかった。新基地建設が進む現状や、建設に反対する県民の民意を踏まえると危機感が弱く映る。軍事によらない平和の構築に向け基地を抜本的に減らす決意をもっと強く発信すべきだ。
 沖縄戦のさなかに米軍基地建設が始まり、過重な負担が76年間続く。現在、米軍や自衛隊のミサイル配備が進んでおり、有事の際は敵のミサイルの標的になる。その上、米国には、核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイルを沖縄に配備する計画もある。ミサイル戦争になれば、沖縄に核兵器が使われ壊滅的な打撃を被る恐れもある。
 こうした機能強化への拒否感が県民の間で強まっている。米軍普天間飛行場にない軍港などの機能が加わる辺野古新基地に多くの県民が反対しているのもその一つだ。
 玉城知事は平和宣言で「辺野古新基地建設が唯一の解決策という考えにとらわれることなく」と政府に求めた。いくつかの選択肢の中に辺野古を含めてもいいかのような誤解を与える表現だ。2年前の宣言では普天間飛行場の一日も早い危険性の除去と辺野古移設断念を強く求めたが、この文言は昨年に続き省かれた。知事の公約である要求について「慰霊の日」の平和宣言という広く注目される舞台で決意を示さないのは大いに疑問だ。辺野古新基地建設のための埋め立てに、多くの戦没者の遺骨があるとみられる慰霊の地の土砂を使わないよう求めることもなかった。
 玉城知事が政府に求めている在日米軍専用施設面積を「50%以下」にする要求にも触れなかった。沖縄戦の悲劇を二度と経験したくない県民の願いに照らせば大幅な基地削減への気概が感じられない。
 一方、菅義偉首相はあいさつで基地負担軽減に向け「できることは全て行う」と述べ、北部訓練場の過半返還などを自画自賛した。返還部分は、米軍が「不要」と明言した場所にすぎない。負担軽減は印象操作でしかない。それどころか東村高江に新たなヘリパッドを建設し、機能を強化した。県民投票で投票者の約7割が反対した辺野古新基地建設への埋め立ても強行している。欺瞞(ぎまん)と言うほかない。
 追悼式でひときわ光ったのは中学2年の上原美春さんによる「平和の詩」の朗読だ。堂々とした態度と響く声で「みるく世(ゆ)を創るのはここにいる私たちだ」と訴えた。世界の人々が一丸となって軍事によらない平和を築くことが戦没者への最大の慰霊である。