<社説>リンゴ日報廃刊 香港への言論統制やめよ


社会
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 香港の蘋果日報(リンゴ日報)が24日の朝刊発行を最後に、26年の歴史に幕を下ろした。唯一の民主派系新聞として対中批判を続けてきた同紙だが、中国の習近平指導部による締め付けで廃刊に追い込まれてしまった。

 香港は中国への返還後も、「一国二制度」の下で言論の自由、報道の自由が保障されてきた。民主主義の基盤をなす自由な言論への弾圧を見過ごすわけにはいかない。
 24日の蘋果日報は、最後の編集作業を見守るために、雨の中を本社ビルの周囲に集まった多くの市民の写真を1面に掲げた。社説は「香港人への告別」と題して読者への感謝を示すとともに、「報道の自由は暴政の犠牲となる」と香港の先行きを危ぶんだ。
 最終号は通常の10倍以上に当たる過去最多の100万部を発行し、新聞スタンドには長蛇の列ができた。蘋果日報を多くの市民が支持しており、中国政府や香港当局による取り締まりが不当な弾圧であることを示している。
 香港の林鄭月娥行政長官は「報道の自由に対する攻撃ではない」と抗弁している。だが、中国批判を続けた蘋果日報を見せしめ的に狙い撃ちにしているのは明らかだ。
 中国は2020年6月に、香港の統制強化を目的とした「香港国家安全維持法(国安法)」を成立させた。直後の同年8月、香港警察は国安法違反の疑いで蘋果日報創業者の黎智英氏を逮捕。黎氏は今年4月に実刑判決を受けたが、容疑は19年の抗議デモである。制定前にさかのぼって国安法を適用するなど、法治主義の原則を逸脱している。
 今月に入り、国安法違反で蘋果日報の編集長ら5人も逮捕され、資産の凍結で同社は資金繰りが悪化した。23日には主筆が逮捕され、社員にも動揺が広がっていた。
 一連の取り締まりの背景には、7月1日の中国共産党創建100年記念日までに、「愛国者による香港統治」を完遂させようとする習指導部の政治的な動機がある。
 国安法に基づき民主派議員の資格が剝奪されるなどした香港議会では5月に、当局が認める「愛国者」以外は立候補できなくなる選挙制度の見直し条例案が可決された。蘋果日報の廃刊への追い込みは、国に忠誠を誓わない勢力をあらゆる場面から排除する総仕上げとして、報道の自由にとどめをさすものだ。
 アジア太平洋戦争中、日本のメディアは国家の言論統制に屈した。3紙が統合して誕生した「沖縄新報」をはじめ新聞は大本営発表を垂れ流し国民を戦争に駆り立てた。民主主義の基盤である自由な報道が失われると国家の暴走に歯止めがきかなくなる。
 1984年の中英共同宣言は、返還後も香港に高度の自治を認め、言論の自由を保障すると規定した。香港市民の自由を力でねじ伏せることは許されない。中国は国際社会との約束を守るべきだ。