<社説>石垣基本条例改正 地方自治の理念ゆがめた


社会
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 「地方自治の憲法」ともいわれる自治基本条例が数の力で骨抜きにされた。

 石垣市議会は市自治基本条例の一部を改正する条例案を与党の賛成多数で可決した。市政運営の「最高規範」とする位置付けと住民投票に関する条文を全て削除した。
 市民の意見を反映して制定された条例が、市民の意思を十分尊重することなく改正された。憲法の保障する地方自治の本旨や地方自治法の趣旨をゆがめる行為であり、看過できない。
 自治基本条例は、2001年4月に北海道ニセコ町が全国で初めて施行した。当時、地方分権一括法が施行され、国と地方が「対等・協力」の関係になった。それをきっかけに「自分たちのことは自分たちで決める」という意識が広がった。県内で初めて施行したのが石垣市だ。
 改正内容は、住民投票に関する条文と自治基本条例を「市政運営の最高規範」とする規定を全て削除した。そして「市民」の定義を石垣市内に住所を有する者とした。
 市政与党会派は提案理由を「条例制定から11年がたち、その間にさまざまな批判や疑問が出ている」と説明した。
 しかし、与党の説明は理由にならない。批判や疑問があるなら、これまでも議会で見直しを論議する機会はあったはずだ。
 条例は「5年を超えない期間ごとに」見直せると規定している(43条)。実際に、条例の課題を審議会がまとめ、中山義隆石垣市長に答申している。これを受け市は条例改正に向け動き出していた。
 なぜ市の手続きを待たず、市議会で熟議もせず、改正を急いだのか。与党は市民に説明する責任がある。
 今回の改正の焦点は住民投票だ。条例は、有権者の4分の1以上の署名で市長に住民投票の実施を請求でき「市長は所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければいけない」と規定している。
 この条例を根拠に、市民が陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を求め、有権者の3分の1を超える署名を集めた。住民の請求を受けて市議会に投票条例案が提案されたが、議会は2度も否決した。
 条例改正によって市が議会に投票条例案を提案する必要がなくなった。中山市長は「(審議会の)答申内容に沿っていると思うので特に問題はない。再議は考えていない」と語った。市長が議会に審議と議決のやり直しを求めない意向なら、住民投票に向けた手続きは止まってしまう。
 これでは二元代表制の形骸化である。二元代表制は、住民が直接投票によって首長と議会を別々に選ぶ。双方は緊張関係を保ち市民の意思を反映しなければならない。
 ところが市長も議会も、将来に関わる特定の問題(自衛隊配備)に直接意思表示したいという3分の1を超える市民の思いを受け止めない。民主主義の危機である。