<社説>全国で大雨被害続く 安全確保のルール化を


社会
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 活発な梅雨前線の影響で、日本各地で大雨被害や土砂崩れが相次いでいる。

 静岡県熱海市で起きた土石流は9人の死亡が確認され、今も安否不明者22人の捜索が続いている。広島県三原市では8日に天井川の堤防が決壊し、市内数カ所に最高ランクの避難情報「緊急安全確保」が発令された。
 この数年、記録的な大雨による河川の氾濫や土砂崩れの大規模被害が7月上旬に集中して起きている。従来の経験が通用しない災害に備える意識を持ち、早い段階から安全を確保する行動を取るルールを決め、社会全体で共有していくことが必要だ。
 熱海で土石流が発生したのは3日だった。球磨川氾濫など熊本県などで甚大な被害をもたらした2020年の7月豪雨も、7月3日の大雨から始まった。19年の九州南部豪雨、14府県で犠牲者が303人に上った18年の西日本豪雨も7月上旬だった。
 毎年のように起きる記録的な降雨の一因と考えられるのが地球温暖化だ。温暖化に伴う海水の高温が、雨量の増大につながる大気中の水蒸気量を増やし、豪雨災害のリスクを高めている。
 それほど雨が降っていない場合も、上流域で長い時間にわたって強い雨が降り続くことで、下流域で水かさが増して大規模氾濫につながることがある。長雨で地盤が緩むことで、大量の雨でなくても土砂崩落が引き起こされる。
 気象庁や自治体の出す気象・避難情報に注意し、河川や斜面の近くに暮らす住民は早めに安全な場所に避難を始めることが重要になる。
 これまで自治体が出す避難情報は「勧告」と「指示」があったが、5月施行の改正災害対策基本法で、「避難指示」に一本化された。避難情報を分かりやすくすることで住民に早期の避難を促し、逃げ遅れを防ぐ狙いだ。
 3日に土石流が起きた熱海市は、避難に時間がかかる人に向けた「高齢者等避難」を前日に発令していたが、避難指示への引き上げは見送られていた。
 避難指示が度重なることで住民の危機意識が薄れてしまうという指摘もある。だが、従来の経験が通用しない自然災害の発生状況を踏まえると、指示の発令や避難の開始に躊躇(ちゅうちょ)は禁物だ。自治体は空振りを恐れず、避難指示を出すことが必要だ。
 熱海の土石流の起点となった山間上部には、建設残土が持ち込まれたとみられる大量の盛り土があった。届け出量を超える土砂を運び込んで盛り土をしていたほか、本来設置されているはずの排水設備がなかったという。
 盛り土について、静岡県は「被害を甚大化させたと推定される」との見解を示している。ずさんな開発行為が災害を大規模化させたとすれば、「人災」にほかならない。同様の危険な造成地がないか、全国総点検が急がれる。