<社説>政府、飲食店へ「圧力」 失策の責任を自覚せよ


社会
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 新型コロナ対策で西村康稔経済再生担当相は8日、酒類提供停止の要請を拒む飲食店の情報を取引金融機関に流し順守を働き掛けてもらう方針を表明した。これに対し取引関係で強い立場にある金融機関を政府の要請で関与させる行為は、独占禁止法で禁じた「優越的地位の乱用」に当たるなどの批判が相次いだ。

 菅義偉首相は「西村氏はそうした趣旨での発言は絶対にしない」と擁護したが、西村氏は9日、方針を撤回した。
 法律を作り順守する模範であるべき国会議員、その中でも要職を担う閣僚が、一歩間違えれば法を逸脱するような方針を表明した上に首相が擁護したことは、政権担当能力を疑わざるを得ない。菅政権のコロナ対策の欠陥を象徴している。飲食店への支援が不十分な上、感染拡大を抑えきれない失策の責任を政府は自覚すべきだ。
 政府は事前に法に抵触しないか検討したのだろうか。金融機関からお金を借りている飲食店は弱い立場に置かれている。独占禁止法は金融機関がお金を貸している店の営業内容に注文を付ける行為を禁じている。
 金融機関にとって、政府の言う働き掛けは、金融機関の営業の自由にも抵触する可能性があるのではないか。法を犯す恐れのある手法を表明した西村氏の責任は重い。任命責任のある菅首相が擁護したことも併せ、この政権にコロナ対策を実行する資格があるだろうか。
 そもそも政府は感染対策に失敗を重ね、緊急事態宣言の発令と解除を繰り返してきた。1月の発令遅れは、政府が「GoToキャンペーン」にこだわったからだとの批判がある。3月には「早すぎる」との指摘を受け入れず第4波を招いた。変異株拡大の懸念を踏まえず3度目の宣言を解除し、3週間もたたない中で4度目の宣言に至った。
 自らの対応のまずさを棚に上げて飲食店に圧力をかけようとする手法は筋違いだ。
 失策の連続が感染拡大を長期化させ、事業者はそのつけを払わされ続けている。長期化による経営難は政府の責任だ。飲食店は協力に見合う支援がなければ協力できない。支援が不十分だからこそ、要請に従えない店が出ている。その実態を直視すべきだ。
 政府は、酒類販売事業者に対して酒類提供を続ける飲食店との取引停止要請は方針通り実施するという。飲食店だけでなく酒類販売業者をも窮地に追いやるのか。協力に見合う支援を双方に講じることが要請の前提である。
 沖縄に対する感染症対策にも根本的な欠陥がある。政府は沖縄への出発前PCR検査を実施する方針を示したが、希望者が対象という。生ぬるい。これでは5月の連休後のように感染者が急増する恐れがある。義務化すべきだ。抜本的な対策を講じなければ観光シーズンを乗り切れない。政府は失敗から学ぶべきだ。