<社説>沖縄振興を考える 国に翻弄されない未来を


社会
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 1972年の沖縄返還(日本復帰)前、米国の大手半導体メーカーが沖縄での拠点開設を計画したものの、国内の製造業保護を優先する日本政府の意向で頓挫していた。

 県は2022年度からの新たな沖縄振興計画素案で、沖縄振興の根拠として日本経済発展への貢献を強調しているが、国益に翻弄(ほんろう)される「貢献」であってはならない。過去をしっかり検証した上で、沖縄が目指す将来ビジョンを打ち出したい。
 沖縄返還を目前に控え、米国資本による駆け込み投資計画が持ち上がった。石油精製業や、アルミ精錬企業の進出が知られているが、半導体大手で世界的な米企業テキサス・インスツルメンツ(TI)も沖縄進出を計画していたことが明らかになった。
 当時、通商産業省(現経済産業省)で外資政策に関わった細田博之元官房長官が証言した。琉球政府はTIの進出を歓迎したが、通産省が激しく反対し法人設立の申請もできなかった。
 日本政府は、返還直前に沖縄進出を計画する外資系企業について「復帰後の本土進出を直接の目的とするものが考えられる」として、貿易と為替を自由化していた沖縄への駆け込み進出を警戒した。
 外務省の極秘文書によると、琉球政府が外資免許を発給する従来のやり方に待ったをかけ、日本の外資政策に合うように対処しようとした。琉球政府の決定権を縛ったとも言える。さらに日本の外資政策上、復帰後の外資の事業活動について米側と調整が必要な企業として、石油関連6社、アルミニウム製造業1社、集積回路(弱電関係)製造業1社などを挙げている。
 このうち石油精製業を例に挙げると、琉球政府は製造業の発展や雇用面で外資進出に意欲的だった。だが、日本政府が国内資本と対立することを懸念したため、雇用が期待できない石油備蓄基地の誘致を検討することになった。
 細田氏の証言は日本政府の方針を裏付ける。先端産業が外資に支配されることを懸念し「富士通やNEC、東芝、日立、そういった企業を育てないといけなかった。沖縄の本土復帰で、外資企業が入ってきて(市場が)席巻されては困る」(細田氏)と日本側は考えていた。
 地域開発論が専門の宮田裕氏は「仮にテキサス・インスツルメンツのような先端企業が沖縄に進出していたら、沖縄の産業構造は根本的に変わっていただろう」と指摘する。
 半導体受託生産(20年)のトップを走る台湾や韓国、シンガポールなどは積極的に外資を導入して雇用を生み出し、技術力を自国のものとし経済発展した。
 自立経済の確立は復帰以来、沖縄が掲げた目標だ。米側の思惑もあるが、日本の国益優先により外国資本のノウハウを沖縄が取り入れ自立経済を確立するチャンスを逸したことを忘れてはならない。