<社説>河井事件 100人不起訴 国民の信頼得られない


社会
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 2019年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、公選法違反(買収など)の罪に問われた元法相の前衆院議員河井克行被告から現金を受け取ったとして、同法違反(被買収)容疑で告発された地元議員ら100人全員について、東京地検特捜部は不起訴とした。

 大物の立件がかなえば、残りを不問にするのか。民主主義の根幹である選挙の公正さを揺るがした責任は重い。検察のやり方は国民の信頼を裏切るものであり、あしき前例にしてはならない。
 公選法は受領側も罪に問うと規定している。今回の事件では、40人が広島県内の当時の首長や県議、市町議と公職にあった者たちだ。他は後援会関係者や選挙スタッフ。99人は起訴猶予で、残る1人は死亡により不起訴となった。受領した金額は5万~300万円。多くは受領を認めた。
 特捜部は20年7月、元法相と妻案里氏を起訴したが、受領側の刑事処分を見送った。広島の市民団体が100人に対する告発状を提出、検察が捜査していた。
 東京地検は不起訴の理由として、有力国会議員だった元法相との関係や、一方的に現金を提供された状況などを考慮したとみられる。
 山元裕史次席検事は「一定の者を選別して起訴することは困難で適切でないと判断した」と説明した。地検と受領者との間で「何らかの取引や約束をした事実は一切ない」と司法取引を否定している。
 過去には、沖縄県内外で20万円の受領で起訴され、刑事処分を受けた事件もあった。検察官に起訴しない自由も認められているとはいえ、処罰の公平性や整合性を欠くとして元検察官や地方の検察官も先例となることを懸念する。今後、検察審査会に審査が申し立てられる可能性がある。
 受領した側は、罰金刑であっても確定すれば一定期間の公民権停止となる。民主主義を支える選挙制度の信頼を確保するための措置といえるが、100万円単位に及ぶ高額な現金を受領した違反者を不問にするならルール無用を認めたことに等しい。民主主義は土台から揺らぐ。
 買収に使われた資金の出どころも不明なままだ。自民党本部が河井氏側に提供した1億5千万円には税金が元手である政党交付金も含まれ、これが原資となったのか。
 公判で河井被告は「手持ち資金」と述べたが、陣営関係者は「党本部からの入金が原資」と証言している。自民党は説明責任を果たしていない。
 政治とカネの問題は続発し、国そのものへの信頼が低下する中、秋に衆院選がある。
 検察トップ林真琴検事総長は20年7月、着任会見で「検察はどのような時にも厳正公平、不偏不党を旨とすべきだ」と強調し、政治とは一定の距離が必要との認識を示した。今回の判断は国民の良識から外れている。民主主義に基づく公正な対応を求める。