<社説>高2自殺意見聴取 速やかに再調査すべきだ


社会
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 なぜ自殺したのか、予兆はなかったのか、遺族が最も知りたいことに県教育委員会は応えてきただろうか。

 コザ高校2年(当時)の男子生徒が、部活動顧問から執拗(しつよう)な叱責(しっせき)を受けて自殺した問題で、生徒の遺族や保護者有志が県議会文教厚生委員会に出席し、意見を述べた。
 県教委が実施した調査の手法を批判した遺族と有志は再調査を求めた。県教委は遺族らの指摘を受け止め、速やかに再調査に着手すべきだ。
 児童生徒が自殺した場合、文部科学省が示す「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」に沿って学校は調査を始める。
 調査は二段階あり「事案発生(認知)後、速やかに着手する」のが基本調査だ。
 この基本調査で学校アンケートが記名式だったことを保護者側は疑問視している。指針に記名か無記名かの定めはない。実施に当たっての要点では、うわさや臆測を排除するため記名式が望ましいとしている。またアンケートに基づく聞き取り調査で、無記名だと確認作業ができないなど実務的な課題を挙げている。
 指針に従えば確かに学校、県教委に落ち度はない。しかし今回の事案は、顧問教諭の言動が生徒に強いストレスを与えた可能性が指摘されている。クラスメートや部活動の仲間が、圧倒的に優位な顧問教諭の言動を記名式で指摘できたか。正確な事実を把握するためには、無記名式が有効だったのではないか。保護者の疑問は当然といえる。
 基本調査に続き、弁護士などの第三者を加えた詳細調査でも、保護者だけでなく識者が県教委の手法に不備を指摘している。
 聞き取りをしたのは生徒10人と管理者を含む教職員5人が中心だったという。さらに2月16日に調査チームが発足し、報告書の提出期限は3月5日と決められていた。
 聞き取り対象は県教委が事前に提示したという。第三者の調査チームは中立かつ自立した機関だ。誰にどのように話を聞くかは、調査するメンバーが決めるべきものだ。
 しかも調査期間は2週間余りしかない。あらかじめ決められた生徒や教職員を対象とした調査で、チームが機能を果たしたか疑問だ。実際に遺族らは、報告書に生徒の死亡当日の行動記録がないとして調査の不備を指摘している。
 調査チーム自体も報告書で事案の重大さに比べて「著しく短い期間である」として、無念さをにじませる記述を残している。
 文科省の指針が示す調査の目的は「自殺に追い込まれる心理の解明や適切な防止策を打ち立てること」にある。
 同時に「遺族の事実に向き合いたいとの希望に応えるため」で「不都合なことがあってもしっかり向き合おうとする姿勢」を学校に求めている。
 今からでも遅くはない。遺族の希望に正面から向き合うことを県教委に求める。