<社説>2021年防衛白書 台湾有事防ぐ外交努力を


社会
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 沖縄にとって深刻な事態が進行している。防衛省は、台湾情勢の安定が「わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要だ」と2021年版防衛白書に初めて明記した。

 背景には、米中対立の激化があり、米国が中国包囲網を強めている状況がある。白書には、中国が6年以内に台湾へ侵攻する可能性があるとしたデービッドソン前米インド太平洋軍司令官の発言も盛り込んだ。
 台湾有事が起きれば、米軍や自衛隊の基地が集中する沖縄は核ミサイルの標的にされる恐れがある。基地機能を強化する軍備拡大で緊張を高めるのではなく、中国との対立や紛争の火種を取り除き、有事を事前に防ぐ外交努力こそが求められる。
 中国による台湾侵攻への危機感を強めている米国は4月の日米首脳会談で菅義偉首相に対し、中国に向き合う覚悟を問うた。これに応える形で菅首相は共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言を盛り込んだ。
 新たな対米協力に向けて菅首相の背中を押したのは、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相だ。政府内には「米側に寄りすぎると、対中外交への影響は避けられない」との慎重論もあったが、首相経験者2人の進言に傾倒していったという。
 その麻生氏は東京都内での講演で、中国が台湾に侵攻した場合、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として対処すべきだとの見解を示した。台湾有事の「次は沖縄。そういうことを真剣に考えないといけない」と強調した。対処とは米軍と自衛隊の参戦を意味する。
 中山泰秀防衛副大臣も台湾有事の際は地理的に近接する「沖縄県に直接関係する」との認識を示した。「目を覚まし」て中国の台湾侵攻に備える必要があると述べている。
 米軍と自衛隊が台湾有事に参戦することを示唆している現段階で、中国は既に沖縄の基地を核ミサイル攻撃の対象にしていると考えるべきだろう。防衛省幹部は「台湾有事が起きれば、近接する沖縄も巻き込まれ、日本が国家的窮地に陥る」と明言している。
 既に日米は台湾有事を想定した共同訓練を南シナ海や東シナ海で繰り広げている。県内でも台湾情勢を念頭に置いた訓練が活発だ。13日に渡名喜島沖で在沖米海兵隊の輸送ヘリが鉄製コンテナを落下させた事故も、その訓練と関係しているとの見方もある。
 訓練激化に伴う事故の多発という平時の基地負担も大きいが、最大の懸念は有事に巻き込まれ、多くの犠牲を強いられる事態だ。それは県民だけでなく日本国民も望まないのは言うまでもない。日本は経済面で中国と深い関係にある。米国の強硬姿勢と一体化せず、日本独自の外交路線で対話を重ね、米中の緊張を緩和させる役割を担うべきだ。